パエージャ・ヴァレンシアーナ Paella Valenciana

日本ではpaellaをパエリアと表記することが多いですね。でも、スペインではパエージャが普通です。でもパエーリャとかパエーヤと発音する人もいます。ほかにもpollo(ポージョ/鶏肉)、bocadillo(ボカディージョ/サンドイッチ)、tortilla(トルティージャ/スペイン風オムレツ)なども同様。スペイン語ではllが重なったときに本来はリャ行の音になるのですが、ジェイスモ(イェイスモ)と呼ばれる現象で、ジャ行あるいはヤ行に変わります。どう発音するかはスペイン国内でも地域差があって、中南米のスペイン語圏も国により、地方により違っているようです。

パエージャというとスペイン料理の代表格のように思われていますね。しかし、実際はスペイン南東部のバレアス海に面したヴァレンシア州の郷土料理です。もちろん有名な料理なので、観光客が多い町のレストランではメニューに載っていることも多く、ヴァレンシア以外の地域でも一般家庭で食べられています。パエージャはパエジェラという大きくて浅い専用の両手鍋を使って調理することが知られているものの、普通のフライパンを代用して作ってもOKです。ヴァレンシア州では、パエージャ以外にもパエジェラを使ったお米料理が数多くあり、それぞれの町にご当地お米料理が存在します。また、毎年3月のLas Fallas de San Joseサンホセの火祭りの期間に、恒例のイベントのひとつとして開催されるのがパエージャコンテストです。地区ごとの代表が、同じ材料と薪を使って腕を競います。

ヴァレンシアの町の南にはスペイン最大の湖、La Albuferaアルブフェラ湖があります。周囲には湿地帯が広がり、その辺りでは10世紀ごろから稲作がおこなわれてきました。湖畔の町El Palmarエル・パルマールはパエージャ発祥の地と言われ、今も昔ながらの料理を出すお店が並んでいます。もともとパエージャは、お米やもうひとつの名物であるオレンジを栽培する農家が、昼食用に屋外で調理して食べたことから定着したのだそうです。

本場ヴァレンシアの伝統的パエージャはこんな感じ。利用するお米はヴァレンシア周辺で栽培されているボンバ米。材料も決まっていて、鶏肉、ウサギ肉、カタツムリ、サヤインゲン、ライマメが入り、シーフードは一切使いません。チキンスープにニンニクとトマトを加え、サフランで色付けします。なので、イメージとは違って、見た目は上の画像のようにかなり地味です。
ヴァレンシア州ではお米とパエージャ鍋を使った料理は家庭でもレストランでも多種存在します。いろいろな町に、お米を意味するArrozアロスの名が付いた名物米料理があるので、ヴァレンシアへ行ったら周辺の町まで足を延ばしていくつか試してみるのもいいでしょう。
一般に、マドリードやバルセロナなどのレストランでは、ヴァレンシア風という表記がなければ、エビやムール貝などが入ったシーフードパエージャや肉も加えたミックスパエージャを食べることができます。

◆つくってみましょう
ウサギ肉やカタツムリは入れずにつくるヴァレンシア風です。
●材料・下ごしらえ(直径25㎝のパエジェラ[1]パエージャ用の浅い鍋使用・3~4人分)
米…2合
※洗わずそのまま。
鶏モモ肉…200g(はみ出している余分な脂肪や皮を切り取ったあとの重さ)
※食べやすい大きさに切り分ける。   
サヤインゲン…4本
※へたの部分を切り取って、すじがあれば取り除き、半分の長さに切る。
白インゲン…10~15粒
※ゆでておいたもの(なくても、缶詰でも、他の大きめの豆でもよい) 
ピーマン…2個(手に入れば緑だけでなく他の色も一緒に)
※縦半分に切り、へた、わた、たねを取り除き、縦に幅1㎝ほどに切りそろえる。
ニンニク…1片
※縦半分に切り、芽の部分だけを取って薄切り。
トマト…1個(大きめのもの 缶詰のカットトマトでも可 その場合は200g目安)
※1㎝程度の角切りに。
オリーブオイル…大さじ
2サフラン…1片
※小さじ1程度の水につけておく。
タイム…少々(生でも乾燥でも)
塩…小さじ1
野菜ブロス…400ml(固形や顆粒のコンソメを400mlのぬるま湯に溶いたものでも可) 
つくり方⇒野菜ブロス

●つくり方
1.具材を焼く
鍋にオリーブオイル大さじ1を入れ、鶏肉を皮側を下にして並べてから火を点ける。
中火でそのまま動かさずに焼いて、焼き色が付いたところで肉を裏返し、インゲンとピーマンを加える。時間をかけずに表面だけ焼いたら、火を止めてすべての材料を取り出す。
2.スープをつくる
オリーブオイル大さじ1を足し、ニンニクを入れて再び点火。ニンニクを軽く炒めて香りが出てきたら、トマトを投入する。トマトに油が馴染み、少しくずれてきたところで、野菜ブロスをゆっくりと注ぎ込み、タイムとサフラン(水ごと)を追加。また火を止めて、トマトとスープを混ぜ合わせる。
3.炊く
米を鍋全体に均一にいきわたるように入れ、鶏肉を出来上がりを想定した位置に並べる。上から塩をパラパラと振りかけたら、火を点ける。強めの中火で12分間。最初はそのままで、沸騰してきたらふたをする。ちょうどいいサイズのふたがなければアルミホイルで代用OK。
*パエジェラを使う際は、深さがないので吹きこぼれないよう、火加減に気を付けないといけません。
4.仕上げ
時間になったら火を消し、ピーマン、サヤインゲン、白インゲンをごはんの上に並べてから、再度ふたをして15分ほど蒸らす。この時点でまだ水分が残っているようであれば、さらに弱めの中火にかけるとよい。焦げ過ぎないように注意。最後に具を見栄えよく並べなおして出来上がり。
お米は洗ったり、炒めたりせずにそのまま使います。
これはサフランの風味を活かす料理なので、味付けは控えめです。

パエージャの色と風味に欠かせないのがサフランsaffron。高価で知られる赤くて細長いスパイスで、サフランの雌しべの先の部分を乾燥させたものです。サフランはアヤメ科クロッカス属の球根草花。10月から11月に紫色のかわいい花を咲かせます。その花に雌しべは一本しかありませんが、先端が三本に分かれるため、スパイスとしてのサフランはひとつの花から三つとれるわけです。サフランのことをスペインではazafránアサフランといい、アラビア語の黄色を意味する「アスファル」が語源とされています。

References

References
1 パエージャ用の浅い鍋