アジサイHydrangea macrophyllaは日本と中国が原産の落葉低木で、日本では古くから親しまれている植物のひとつです。以前はユキノシタ科に分類されていましたが、現在では独立したアジサイ科として扱われるようになっています。その花の花弁のように見える部分は愕。 もとの自生種はガクアジサイで、中心に普通の両性花(おしべとめしべのある花)がかたまり、周囲に装飾花と呼ばれる色とりどりの萼片をつけたかたちが一般的でした。しかし、やがて両性花がすべて装飾花に変化して球状になった変種のアジサイが広く栽培されるようになり、今では主流になっているのです。すべてが装飾花となったアジサイは結実しないため、繁殖は挿し木でおこなわれます。
アジサイは土壌のpH(水素イオン濃度)によって、酸性では青になりアルカリ性では赤になることが科学的に証明されています。アジサイの持っているアントシアニンという色素が、青から紫、ピンクや赤の花色のもとです。それが土壌中のpHの違いによって発色に変化が生じます。なので、理論的には土壌に手を加えて酸性やアルカリ性へ傾ければ、自分の好みの色のアジサイを咲かせることができるはずです。園芸店やホームセンターへ行けば、赤花、青花それぞれ専用の培養土や配合肥料も販売されていて、たとえば今咲いているのが青のアジサイだとしても赤花用の肥料を与え続ければ赤に変わっていくことが期待できるでしょう。しかし、これはそこまで単純に考えていいことではありません。
pHは7を中性として、アルカリが強いほど数字が大きくなり、逆に酸が強いほど小さくなります。一般に植物の生育に適しているのは中性から弱酸性のpH6~7の土壌です。なぜかというと土中の微生物の大半はpH6~7が最適の環境とされるから。植物の生育に不可欠な16元素のうち、水と二酸化炭素にある酸素、水素、炭素を除く13種類は、すべて土中で水の中に溶解されます。土壌が中性に近い状態では、この必要な要素が比較的バランスよく存在していますが、アルカリ、酸のどちらかに傾いてしまうとバランスが悪くなり、成長が阻害されることにつながるのです。アルミニウム、鉄、亜鉛などは植物にとって微量に必要な要素ではあるものの、中性に近い場合は溶け出す量がわずか。ところが、これらは酸性が強くなるとより多く溶け出してしまうのです。アジサイの花を青くするには、アントシアニンがアルミニウムイオン(Al3+)ともともと持っている光合成色素が結びつく必要があります。アルミニウムがイオン化するのはpH4以下だそうです。お酢が概ねpH3なので、これはかなり強い酸性ですね。実はアジサイは多量にアルミニウムを摂取しても阻害を受けない性質をもっていることがわかっています。ところが、ほとんどの植物はアルミニウム耐性をもっていないので、強酸性の土壌では生きていくことが困難なのです。美しい青のアジサイを育てたければ、庭ならほかの植物から離れた場所に植えるか、コンテナなどで栽培することをお勧めします。ちなみにアジサイも品種によっては、pHに従って花色が変化しないものもありますし、白系の花はアントシアニン自体を持っていないため色が付きません。
ついでですが、鉢物を扱う生産業者は、苗の頃から薬剤で花色をコントロールし、より鮮やかな色に仕立てています。青系には硫酸アルミニウムを施してアルミニウムを吸わせ、赤系にはリン酸アンモニウムを与えてアルミニウムの吸収を抑えるというやり方です。
アジサイは今年伸びた枝に来年の花芽がつきます。花が終わったあとで4つも5つも節が延び、その先端の芽だけが花芽になるため放っておくととても大きな株になってしまいます。気温が高いうちは花芽はできずすべて葉になるので、気温が20℃を下回ってきたところで全体を剪定し樹形を整えるというのがいい方法です。さらにもっと葉を茂らせておいて力を蓄えさせたいという場合には、秋には枝を切る代わりに下部の芽だけを残して他の芽を切り取るか傷つけ、下のほうに花芽がつくようにコントロールしたうえで、落葉後に花芽のうえで剪定するというテクニックもあります。