アブラナ

春の訪れとともに、ナノハナの黄色い花を目にするようになります。ナタネという呼び方もありますが、植物の分類としてはアブラナ科アブラナ属のアブラナです。もちろん菜種油を採取するのでその名があります。
アブラナの原種は、西アジアやコーカサス地方から北欧スカジナビアまでのヨーロッパにも広く分布します。大麦などの穀物の畑に生える雑草という位置づけです。その学名はBrassica rapaといい、日本での固有の和名はなく、そのままブラッシカ・ラパと呼ばれます。実はこれが多様な栽培植物のもととなりました。アブラナ属の植物は交雑しやすい性質を持つため、アブラナBrassica rapa variegata nippo-oleiferaをはじめさまざまな変種が生またのです。それには毎日のように目にするたくさんの葉物野菜が該当します。学名にBrassica rapa variegata[1]variegataは変種の意味 が付く、ハクサイpekinensis、コマツナperviridis、カブglabra、ミズナnipposinica、ノザワナhakabura、チンゲンサイchinensisなどがみな仲間です。作物としては実に多様ですが、どれもアブラナ同様に伸びた茎の先に黄色い花を咲かせます。

野菜としてのナノハナは、アブラナだけでなく花の部分を食用とするアブラナ属の総称です。雑草だったブラッシカ・ラパを含むアブラナ科の植物は、西方から伝播し中国で栽培作物となってから、日本には弥生時代に伝わったといわれます。その後長い間、食用野菜として扱われていました。奈良時代ごろから調理に植物の種子を絞った油を使うようになったものの、その原料はゴマやエゴマが主流で、種子の細かいアブラナは使われていません。江戸時代には、搾油技術の向上とともに採油目的のための栽培がおこなわれるようになります。その油はエゴマ油よりも優秀な灯油(ともしびあぶら)として利用され、さらに調理用の油にもなりました。しかし、明治以降には植物油の原料は徐々に別種のセイヨウアブラナBrassica napusに置き換わり、現在では北海道や東北を中心に全国で栽培される植物油用のアブラナはほぼこの外来種となっています。在来種の種子が赤いのに対し、黒いのが特徴です。

菜種油は、全世界でもパーム油、大豆油に次いで三番目の生産量があり、食用、食品加工用にひろく使用されています。地球温暖化がクローズアップされ、環境保護への取り組みが強まる中で、バイオディーゼル燃料の原料としても知られるようになりました。
また、アメリカのウィスコンシン州で研究用に開発された、種まきから開花までが約2週間、40日ほどで種子が採取できるファストプランツという変種があります。日本でも研究が進んでおり、学校の教材としても活用されているようです。

ゲリラガーデニングあるいは花ゲリラという言葉を耳にしたことはあるでしょうか。自分の所有する土地でないところ、たとえば公園とか河川敷とか道端の小さなスペースなどに、勝手に植物を植えたり種を蒔いたりする行為のことです。もちろん多くの場合が違法だと思いますし、植物によっては、将来的に生態系に悪影響を及ぼす恐れもあり得ます。
アブラナに似た姿で、春にきれいな紫色の花をつけるオオアラセイトウまたはショカツサイやムラサキハナナと呼ばれる植物があります。江戸時代に中国から持ち込まれたとされていて、現在は日本全国で見られるようです。随分前の話ですが、この花も花ゲリラによって広げられたと聞いたことがあります。国立環境研究所の侵入生物データベースによれば、法的扱いは無しになっているものの、あまり増えすぎると何かしらの弊害が起こるかもしれません。残念なのは、葉がエカキムシ[2]ハモグリバエ、ハモグリガの幼虫の食害に遭ってあまりきれいでなくなることです。

右が食害を受けている葉

References

References
1 variegataは変種の意味
2 ハモグリバエ、ハモグリガの幼虫