ウシュアイア / Usuaia

南北アメリカ大陸を縦断するパンアメリカンハイウェイという道路があります。アラスカから始まり、カナダ、アメリカ、中米各国を通って南米のアルゼンチンまでというルートです。そのアルゼンチンで道路の終点になるのがウシュアイア。南米大陸とはマゼラン海峡で隔てられたフエゴ島にある、ティエラ・デル・フエゴ州の州都です。
ティエラ・デル・フエゴ国立公園のラパタイア湾へ行くと、ここが終点という看板があり、アラスカまで17,846kmと記載されています。確かに地の果てというような光景が広がっていて、行ったときはちょうど雨上がりで、行く手に大きな虹がかかっていたせいか、より感じ入るものがありました。アルゼンチンとチリ両国の南部にまたがるパタゴニアには、見どころが豊富にあります。ウシュアイアも、わざわざここまで行く価値がある場所のひとつです。ティエラ・デル・フエゴTierra del Fuegoとはスペイン語で火の国の意。フェルディナンド・マゼランが、世界一周の航海でここを訪れた際に、いたるところで先住民の焚くかがり火が見えたことから名付けたそうです。

ラパタイアの道路の終点
地の果ての虹

この国立公園で見てほしいのはナンキョクブナの森です。ナンキョクブナ属Nothofagusの植物は30種以上あり、南半球の広い地域に分布しています。フエゴ島に多いのは落葉高木の3種だとか場所によっては強風の影響なのでしょう、枝がみな同じ方向へ伸びていたり、折れたり曲がったりした木もあり、自然環境の過酷さを物語っています。
裸地に最初にやって来る植物はコケや地衣類です。そのあとに草が生え、次に光が好きな陽樹が現れます。陽樹の森林が形成されると地面まで光が届かなくなるので、草は育ちませんし、陽樹の幼木も育ちません。そして、そこに出てくるのが光をあまり必要としない陰樹です。しばらくは陽樹と陰樹の混じった共生が続くものの、やがて陽樹は姿を消して陰樹の森林が出来上がります。この一連の流れを植生の遷移、最終的に陰樹の森ができて安定した状態を極相と呼びます。一度極相が出来上がったとしても、たとえば洪水とか火山の爆発とかの大きな自然の変動によって破壊されることがあり、するとまた初めからやり直し。ただし、その遷移スピードは速くなるそうです。この土地でどんな遷移が繰り返されたのかは知ることができませんが、ここはまさにナンキョクブナの極相林といえます。森を歩くと、何世代も積み重なった葉や枝が堆積してフカフカと柔らかです。森の先にはとコケに覆われた湿原が広がります。コケの下は分厚い泥炭の層です。同行したレンジャーが採取した泥炭に火を点けて見せてくれました。

ナンキョクブナの木をよく見ると、ヤドリギのように、枝に丸いオレンジ色のモコモコした塊がくっついていることがあります。これはナンキョクブナに寄生するキッタリアCyttariaというキノコの一種です。パタゴニアでは先住民の食用とされていて、インディオのパンとも呼ばれます。

左:ピート(パタゴニアのものではありません) / 右:乾燥したキッタリア

フエゴ島の南、対岸にナヴァリーノ島とオステ島を臨む狭い海峡がビーグル水道です。19世紀イギリスの帆船ビーグル号がここを抜けて航海したため名付けられました。ビーグル号は3回にわたって探検の旅に出ています。「種の起源」で知られるチャールズ・ダーウィンが乗船したのは、1830年から36年に行われた第2回の航海です。このときの模様を綴ったのが「ビーグル号航海記」。
ウシュアイアからビーグル水道を巡るクルーズがあります。船上からは珍しい鳥や動物をいろいろと眺めることができるので、おすすめです。時期によっても違いますが、小さな島の上に群棲するアシカの仲間のオタリアやマゼランペンギンが見られます。