カーネーション

誰でも知っている身近な花のひとつカーネションCarnation(学名Dianthus caryophyllus L.)。母の日の贈り物として定着してから久しく、毎年5月に切花や開花株が大量に出回るようになって、現在は年間を通して楽しめる花になりました。カーネションはナデシコ科ナデシコ属の多年草です。よく見かけるのはフリルのような花びらの八重咲きですが、一重の花もかわいくて人気があります。一本の茎の先にひとつだけ花をつけるスタンダードタイプと、茎が先端付近で分かれてそれぞれに花がつくスプレータイプがあるのも特徴です。原産地は地中海沿岸を中心とした南部ヨーロッパから西アジアにかけて。17世紀からイギリスやオランダでは交配の研究が進み、チューリップ同様に新しい品種が次々と作出されました。そのため色も豊富で、白や赤系はもちろん、緑や黒に近い紫、さらに数年前には青のカーネションも開発され話題になったことがあります。

母の日は世界の多くの国で祝われます。それでも、国によって違いがあって、日付が共通しているわけでも、その日にカーネションを贈る習慣があるわけでもありません。母の日のカーネーションは、もともと20世紀の初頭にアメリカから始まったそうです。日本はアメリカに倣って5月の第2日曜日を母の日として、カーネーションを贈るようになりました。オーストラリアでは菊の花を贈ります。お母さんとキクはどちらもマムmumだからです。
キリスト教には、イエスが十字架にかけられた際に悲しんだ聖母マリアの涙が地面に落ち、そこからピンクのカーネションが生えたという伝説があり、母の不滅の愛を象徴する花とされます。
ナデシコ科の花の総称は英語ではpinkピンクです。それがそのまま色の名前になりました。ピンクというと赤と白が混じった幅広い色を指します。でも日本語で桃色や桜色、朱鷺色となった場合はそれぞれイメージする色合いがありますね。
ナデシコ科ナデシコ属は日本にも自生種がいます。秋の七草に数えられるナデシコ(撫子)というのは日本産のカワラナデシコのことです。枕草子に「草の花はなでしこ。唐のはさらなり、大和のもいとめでたし」とあるように、中国渡来でカラナデシコ(唐撫子)とも呼ばれるセキチクと区別するために、ヤマトナデシコ(大和撫子)の名があります。

カーネションは日本には江戸時代にオランダからやってきました。当時はオランダ語名anjelierをアンシャベルと発音したり、オランダセキチクと呼んだりしたそうです。国内に定着して本格的に栽培が始まったのは20世紀に入ってからですが、今ではバラとキクと並んで生産量の多い花になっています。
ナデシコ属の学名はDianthus 。ギリシャ語の神dioと花anthosをつなげた言葉で、古代ギリシャの時代に、植物学の祖といわれるテオプラストスによって名づけられたものです。テオプラストスは植物学者であるだけでなく、アリストテレスとも親しい哲学者としても有名。いくつもの名言があります。「時とは人が消費することのできる最も価値あるものである」「時間の浪費は、すべての支出の中でもっとも贅沢で高価なものである」似たような意味ですが、合わせるとよくわかる気がしませんか。