イギリスの王立植物園であるキューガーデンズKew Gardensは、ロンドンの中心部から南西のリッチモンド・アポン・テムズに位置します。ロンドンから地下鉄の利用でも気軽に行ける場所にありながら、115万㎡という広大な敷地を持つ世界屈指の植物園です。そこには世界中から集められた3万種を超えるといわれる植物が保存、育成されています。鉄骨とガラスでできた全長110mの大温室パームハウスがキューガーデンズの象徴的建物です。内部は熱帯、亜熱帯の植物で埋め尽くされています。また、故ダイアナ妃によって建てられた小さな温室もあり、こちらはサボテンなどの多肉植物とスイレンの池が見どころです。
この植物園が一般に公開されるようになったのは1841年のことですが、それ以前から国王の植物園としてよく知られていました。1759年、当時の皇太子妃オーガスタにより、もともとイギリス王室の離宮のひとつであった、キュー宮殿の庭園に薬草園が設けられたのを起源とします。18世紀のイギリスを代表する建築家ウィリアム・チェンバースによって大規模な改修が行われた庭園は、オーガスタ妃の死後、息子である国王ジョージ3世が引継ぎ、世界各地の植物を収集し栽培するようになりました。
ジョージ3世が、自分が思い描く世界最高の植物園造営のために重用したのが植物学者ジョゼフ・バンクスJoseph Banksです。彼は多くのスタッフを自費で集めて、エンデヴァー号によるジェームス・クックの世界一周航海[1]1768-1771年に同行します。彼らはヨーロッパ人として初めてオーストラリアに上陸を果たすことになり、その場所が植生が豊かなことで名付けられたボタニー湾Botany bay[2]シドニー中心地の南です。バンクスはこの地域の植物を調査して、膨大な量の新種、珍種をヨーロッパに紹介しました。
最近は切花でもよく見かける、オーストラリア原産のヤマモガシ科の植物バンクシアBanksiaは、バンクスにちなむものです。バンクシアの多くの種では、大きく堅い殻を持つ種子を実らせますが、通常はその殻が破れることがないため、種子が発芽することはありません。ところが、山火事がおきると、それを刺激に破裂して内部の種子が放出され、世代交代が行われます。
バンクスは、庭園の園丁のひとりであるフランシス・マッソンFrancis Massonに命じて、アフリカ大陸南端のオランダ領ケープ植民地へ赴かせ、あらゆる種類の植物を集めさせます。このマッソンが、その後世界中で活躍するイギリスのプランツハンターの第一号です。マッソンは、南アフリカで発見した美しい花に、ジョージ3世妃シャーロットの旧姓であるストレリチアStrelitziaと名を付けました。ストレリチアとはゴクラクチョウカのことです。
ゴクラクチョウカは切り花だけでなく、地植えでも楽しめます。花期が長いので、混植するとアクセントになります。ただし、草丈が高くて葉も大きいので、ボーダー花壇の奥に植えるなど配置を考えないといけません。
ちなみにマッソンがケープで出会い行動を共にしたのがカール・フォン・リンネの弟子カール・ピェテル・テュンベリCarl Peter Thunberg[3]ツンベルク、ツュンベリーなどとも表記。1775年にオランダ東インド会社の医師として来日しています。1年間の滞在期間中に日本の植物を数多く採集して本国へ持ち帰り、「日本植物誌Flora Japonica」を著しました。彼が命名した学名にはThunb.の略称が付きます。
インデックス・キューエンシスIndex Kewensisなるものがあります。1893年に、すべての種子植物を登録することを目的にキューガーデンズで始められました。現在は、IPNI, International Plant Names Indexの一部となっており、登録された植物の名前で検索が可能です。