クリスマス前の4週間は、アドヴェントAdvent(待降節)と呼ばれる楽しいクリスマスの準備期間です。毎年、イエスの十二弟子のひとり聖アンデレの日である、11月30日に最も近い日曜日から始まり、クリスマスイヴまで続きます。この時期にヨーロッパを訪れると、ほとんどの町でクリスマスマーケットが開かれていて、とても賑わっている場面に出会うことでしょう。一般にカトリックやプロテスタントの教会暦(典礼暦)では、アドヴェントが一年の始まりとされているので、イエスの降誕を待ち望むこととともに新年を祝うという意味もあるのです。クリスマスマーケットといえば特にドイツは有名。ドイツ語ではWeihnachtsmarktヴァイナハツマルクトやChristkindlmarktクリストキントマルクトと呼ばれ、町ごとにさまざまな特徴があり、何箇所かを回って楽しむのもおすすめ。ヴァイナハトとは聖夜の意味。クリストキントとは幼な子イエスのことです。
数ある有名なマーケットの中でも世界的に知られているのは、1639年から続くニュールンベルクNürnbergのマーケットでしょう。旅行のガイドブックなどにもよく紹介されていますし、日本からのツアーも多いようです。ニュールンベルクのクリスマスマーケットでは、本来の伝統的な形態を残して後世まで伝えることを理念としています。出店するためには厳しい審査があり、商品は地域の工芸品や食料品などに限られているそうです。そうやってクリスマスマーケットの町というイメージが守られているのだと思います。
ニュールンベルクと同じバイエルン州の、ロマンチック街道沿いに位置するアウグスブルクAugsburgでは、ドイツで一番大きいルネサンス様式の建物である市庁舎が特色です。市庁舎前の広場で開かれるマーケットには巨大なクリスマスツリーが聳え、その根元で毎日ブラスバンドの演奏や合唱が行われます。週末の夜のお楽しみはエンゲルシュピールEngelspiel。広場に面した市庁舎のバルコニーにこの町の少女たちが扮する24の天使が現れ、音楽を奏でます。
さらに、アウグスブルクから160㎞ほど西へ向かった、メルセデスとポルシェの町シュツットガルトStuttgartでは、ヨーロッパ最大といわれるマーケットが開かれます。町の中心に位置するマルクト広場とシラー広場には所狭しとお店が軒を連ね、宮殿前には子供たちのためにメリーゴランドが用意されます。
ドイツで最も歴史が長いのは1434年に始まったとされるドレスデンDresdenのマーケット。シュトリーツェルマルクトStriezelmarktと呼ばれています。シュトリーツェルというのは、ドイツでクリスマスの時期に食べられるお菓子シュトレンstollenの別名です。当初は肉やパンなどの食料品を扱っていたことからこの名が残っているのだとか。現在は広場に色とりどりに飾られた約250の店舗が建ち並び、クリスマスに関わるあらゆるものが売られています。
ドレスデンは旧東ドイツにあたるザクセン州にあり、チェコとの国境近くのエルベ川沿いに佇む美しい町です。大戦で破壊された町並みは、イタリアの画家カナレットの筆による風景画を頼りに復元され、瓦礫の山の状態で長く保存されていた聖母教会も再建されました。そのチェコ国境に広がるエルツ山地で生まれたのが、ドイツのクリスマスマーケットで特徴的なヴァイナハツピラミデWeihnachtspyramideです。もとはこの地方の木製工芸品で、室内に置かれるクリスマス用の飾りでした。木で組まれたピラミッドの頂上部には水平にプロペラが取り付けてあり、それが周囲で灯すロウソクの熱で回る仕組みです。やがて屋外に飾る大型のピラミッドが登場し、東西ドイツが統一されると全土へと広まっていきました。
こうしたドイツのクリスマスマーケットで欠かせないのがグリューワインGlühwein[1]英語ではmulled wineマルド・ワイン、フランス語ではvin chaudヴァン・ショウです。赤ワインにシナモンやクローブといったハーブを加えて温めたこの時期にぴったりの飲み物で、これをちびちびやりながらお店を見て回るのがドイツ流といえるでしょう。
もちろんドイツだけでなく、ヨーロッパの他の国々でも賑やかで楽しいクリスマスマーケットを見ることができます。マーケットのある場所以外でも、至るところに美しいクリスマスの装飾やイルミネーションが溢れていて、その宗教的でもあり祝祭的でもある雰囲気に浸るのもいいですね。
References
↑1 | 英語ではmulled wineマルド・ワイン、フランス語ではvin chaudヴァン・ショウ |
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