クレタ島は、地中海に浮かぶギリシャ最大の島です。島の面積は8,450㎡あり兵庫県と同じぐらいの大きさですが、東西が約260kmもあって非常に細長い形状をしています。そのほとんどが地中海性気候の地域にあり、温暖で穏やかな気候です。南部の沿岸部分は北アフリカの砂漠気候が混じります。地勢は全体に山がちで、島の中央部に位置する標高2,456mのイディ山をはじめ、連なる2,000m級の山々と峡谷、川や湖が作り出す美しい自然の景色が島の見どころ。この島はギリシャ神話の主神で神々の王と位置づけされるゼウスが生まれた場所とされています。神話によると、ゼウスの父クロノスが自分の子どもに王座を奪われることを恐れて生まれてくる子どもを次々と呑み込んでいたものの、母レイアによって隠されたゼウスが、クロノスとの戦いに勝利し王となったのだとか。東部のディクティ山の斜面には、生まれたばかりのゼウスを隠した洞窟というものがあります。鍾乳石で覆われた洞窟内の発掘調査では、古代の信仰の証として数多くの供物が発見されました。
クレタはクノッソス宮殿に代表される古代文明の地として知られます。ミノア文明と呼ばれるクレタを中心としたエーゲ海の島々での文明が栄えたのは、紀元前3,000年ごろから紀元前1,100年ごろ[1]諸説ありにかけての青銅器時代のこと。しかしそれは長い間知られることは無く、19世紀末になってこの地にギリシャ本土とは別の文明の遺構があると考えられるようになりました。そして、1900年にイギリスの考古学者アーサー・エヴァンズによってクノッソスの遺跡が発掘されるのです。この遺跡では、線文字A、線文字Bが記された粘土板を含めて数多の出土品がみつかりました。また、島内の別の場所でも同時代の遺跡の数々が発見されて研究が続けられているにもかかわらず、まだまだ謎が多いようです。ミノア文明というのは、ギリシャ神話に出てくるクレタ王ミノスの名に因んで付けられた名称。ミノスはゼウスとエウロパ[2]フェニキアの王女・ヨーロッパの語源の間に生まれ、ふたりの兄弟と共にクレタ王アステリオンの養子になります。彼はポセイドンの助けで兄弟との争いに勝って王となったものの、ポセイドンとの約束を守らなかったため、王妃のパーシパエが牛頭人身の子供ミノタウロスを産むことになってしまいました。次第に乱暴になるミノタウロスに手を焼いたミノスは迷宮をつくって彼を閉じ込めます。ミノスはミノタウロスに与えるため、アテネから定期的に生贄を送らせていました。しかし、アテネの王子テセウスが生贄として志願し迷宮へ赴き、見事ミノタウロスを退治。その迷宮がクノッソスというわけです。テセウスは迷宮に入る際に、ミノス王の娘アリアドネから授かった糸玉「アリアドネの糸」を入口から張りながら進み、それを逆に辿って無事に脱出しました。しかし、アテネ王アイゲウスはテセウスが死んだと思い込んで海に身を投げてしまいます。そこから名が付いたのがエーゲ海です。ちなみにミノタウロスは、ダンテの「神曲」の地獄篇第6歌にケンタウロスと一緒に登場します。
その豊かな自然と恵まれた気候の影響によって、クレタ島にはここでしか見ることのできない植物、特に球根草花の原種が豊富にあります。まさに山野草の宝庫と言って差し支えないでしょう。ここに自生する植物の中でももっとも美しいとされるのがチューリップです。チューリップの原産地は中央アジアから東地中海にかけてで、トルコやイランでは国花とされているほどですが、クレタでも非常に美しい原種のチューリップを見ることができます。クレタには、4種の原種チューリップが確認されています。その中でも花期が長く、群生するのがサクサティリス(Tulipa saxatilis)という種です。日本でもライラックワンダーという園芸品種が出回っているので、見たことがあるという方も多いかも知れません。原種の草丈は園芸品種と比較して低いのですが、紫がかったピンクの花弁の中心部は濃い黄色という印象的な花が自然の中で咲く姿は壮観です。また、クレタ島の名が付いたクレティカ(Tulipa cretica)は、草丈が5cmから大きなものでも15cm程度しかなく世界でもっとも小さなチューリップといわれます。ピンクや紫に縁取りされ尖った花弁が特徴で、2000m以上の高地で見られます。