イタリアの蒸留酒です。ワインをつくる時のブドウの搾りかすを原料にするため、かす取りブランデーpomace[1]発音はポミス ポマースと読むのは間違い brandyと呼ばれる種類に含まれます。アルコール度数が高く、少量を食後酒として飲むのが一般的。グラッパの製法は法令で厳しく規定されていて、EU内でもグラッパの呼称は、イタリアで生産されたブドウを用い、イタリア国内の工場で製造されたものにしか使用できないことになっています。
グラッパは、1779年にバッサーノ・デル・グラッパBassano del Grappaにつくられた、イタリアで最古の蒸留所といわれるナルディーニ蒸留所ではじめて製造されました。バッサーノ・デル・グラッパとは、北イタリアのヴェネト州にある町です。ヴィチェンツァを中心に多くの建築物を残した、パッラディオ[2]16世紀の建築家が設計の橋ポンテ・ヴェッキオ[3]ブレンタ川に架かる木造の橋 洪水や戦争で何度も破壊され、パッラディオの設計に基づき再建で知られます。また、文豪アーネスト・ヘミングウェイが、第一次世界大戦中にイタリアへ従軍記者として赴いた際に、負傷して3か月の入院生活を送ったのが、この町です。当時アメリカ赤十字の病院となっていたCa’ Erizzoという建物は、ヘミングウェイと大戦の博物館になっています。「武器よさらば」[4]1929年発表はこの時の経験をもとに書かれたそうです。ヘミングウェイの小説にはグラッパがときどき登場しますね。
グラッパは、樽で貯蔵をしないため、無色透明が普通でしたが、近年、同じかす取りブランデーのフランスのマール同様に、樽貯蔵することで琥珀色で風味の強いタイプが登場しました。また、ハーブ類を浸漬するリキュールも数多くつくられて人気を得ています。そのうちのひとつがグラッパ・アッラ・ルータGrappa alla ruta。ルーという強い芳香がある植物の小枝を漬け込みます。ルーというのはヘンルーダとも呼ばれるミカン科の常緑低木で、以前は薬用とされていたものの、接触皮膚炎を起こす危険性があることから、現在はグラッパに入れる以外は、ガーデニング用に使う程度です。斑入りはおすすめですけど。
ルーというと思い出すのがオフィーリア。ハムレット[5]いわずと知れたシェイクスピアの四台悲劇のひとつの第4幕第5場で、彼女が兄と王と王妃に順番に花を渡す場面があります。そこでオフィーリアは王妃ガートルード[6]ハムレットの母で先王の妻だったが、その死後王位に就いた王の弟と再婚に対して差し出すのがルー。
There’s rue for you, and here’s some for me; we may call it “herb of grace” o’ Sundays.
You may wear your rue with a difference.
あなたにはルー、私にも少し。これは日曜の恵みの薬草と呼ぶの。
あなたは別の意味で身につけてね。[7]こんな意味だろうという和約 舞台などのセリフではありません
当時はルーを鎮痛剤や虫よけなどの効用があるとされherb of graceと呼ばれました。そして、英語のrueには後悔の意味があります。
イタリアにはアクアヴィテ・ドゥーヴァAcquavite d’uvaという別のお酒があります。アクアヴィテはオー・ドゥ・ヴィーと同じで命の水の意。よくお酒を扱うプロでも間違えるのですが、ウーヴァはブドウ果汁とその搾りかすの両方の蒸留物なので、ブランデーとかす取りブランデーの中間的製品といえ、グラッパには属しません。uvaはイタリア語でブドウです。
グラッパの老舗ポーリ社からは、ボルゲリのサッシカイアのバリック[8]ワインのための小樽で熟成させたグラッパが発売されています。興味のある方はぜひ一杯。