高原の象徴ともいえるシラカバ(あるいはシラカンバ)Betula platyphyllaは、主に本州の中部地方以北から北海道にかけての山地帯に分布する落葉高木です。細く高く成長し、樹高が25~30mとなって群生します。特徴は山の中でもよく目立つその樹皮です。白いカバノキとして名前の由来にもなっていますが、薄くはがすことができるので紙の代用として使われていました。また、同じ仲間のウダイカンバとともに、樹皮を燃やすと火力が強く雨中でも燃えやすいことから、焚き火の火種としても利用されたそうです。ウダイカンバは漢字では鵜松明樺と書き、鵜飼の松明として使われたことでその名が付いたことがわかります。
シラカバは成長が早いものの、寿命が70~80年と短く、太い大木になることはありません。日光を好む陽樹なので、群生すると足元が暗くなり幼木が育たなくなり、やがてあとからやって来るブナ科などの陰樹に淘汰されてしまいます。しかし、シラカバを含むカバノキ科の植物は風媒花です。種子には大きな翼があることからよく風に乗り広く散布されます。そのため分布域が広いことが強みです。ただそれが厄介なことに花粉症の原因にもなります。フインランドやスカンジナビア、それにカナダなどでは、シラカバをはじめとしたカバノキ科の植物による花粉症が多いそうです。
樹木が成長できる範囲の端、つまり境界となる部分を森林限界と呼びます。英語ではforest lineあるいは樹木の限界と言う意味でtimberlineです。植物は低温、乾燥、氷結といった環境条件に耐えられなくなると生育できません。限界に近づくにつれて樹木はまばらになり、樹高が低くなったり変形したりして最後にはなくなります。特に亜寒帯および亜高山帯の森林限界付近で起こりやすいこのような発育不全の植生は、ドイツ語で湾曲した木を意味するクルムホルツkrummholzと名付けられました。ヨーロッパの亜寒帯域で森林限界に広がる樹種はほとんどがカバノキ属のヨーロッパダケカンバBetula pubescensです。
ちなみに、ポーランドの西部、ドイツとの国境近くには、Krzywy lasクセヴェ・ラース(曲がった森)という人為的に曲げたと思われるマツの森があります。
日本では富士山の場合、5合目を過ぎた標高2,400~2,500mあたりが森林限界といわれます。ところが昨年、40年前と比較すると森林限界が約30mも上昇したという新聞記事を目にしました。やはり地球温暖化の影響らしいです。
森林限界は気温によって変化するので、標高に加えて緯度も関係します。東北から北海道へと北へ向かうにつれてその高度は下がり、逆に四国や九州では高度が上がるわけです。
シラカバで日本の園芸用に利用されるのは主にジャクモンティBetula utilis ssp. jacquemontii という品種で、比較的暖かい場所でも育つことと、普通のシラカバと違って幼木のときから樹皮が白いことから人気があります。