イタリア北西部のフランスにつながる海岸線に位置するのがリグーリア州。その州都でイタリア最大の貿易港がジェノヴァGenova(英語名Genoa)です。ここは天然の良港として古代から栄えた場所で、11世紀にジョノヴァ共和国となると、香辛料や絹を中心とした商取引で繁栄します。また、ジェノヴァは造船や操船技術によって海軍力を高めると同時に、ジェノヴァ弩(いしゆみ)[1]歯車などで弦を巻き取り、矢をセットして引き金を引く威力ある弓隊という強力な軍隊で十字軍の戦いに貢献。その後は長くヴェネツィアと地中海の覇権を争いました。現在もかつての栄華を物語る豪華な宮殿や邸宅が残っています。この町は、クリスファー・コロンブス[2]イタリア語Cristoforo Colombo 毛織職人の息子だったらしいものの不確かですが幼少期を過ごした場所といわれ、彼が住んでいたという家も観光名所のひとつです。
さて、イギリスというのはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4か国と海外領土を合わせた連合国家で、国旗は青地に白と赤の十字、斜め十字を組み合わせたユニオンジャックなのはご承知の通りです。スポーツでは競技によって協会組織があり、サッカーやラグビーなどではイギリスとしてでなく4か国がそれぞれの協会として所属しているので、代表チームも4つ存在します。その際に使用される旗はユニオンジャックでなくて各国の国旗です。イングランドはセントジョージ・クロスと呼ばれる白地に赤の十字の旗。実はこの旗はもともとジェノヴァの旗だったのです。中世の地中海は各国の船が行き交っていましたが、海賊の襲撃が横行するなど安全ではありませんでした。イングランドは、地中海で権力を握っていたジェノヴァ艦隊の保護を受ける意味で使用料を支払ってジェノヴァの旗を掲げていたのです。セントジョージとはドラゴン退治で有名な聖ゲオルギウスのことで、十字軍士からも崇拝され、ヨーロッパで広く愛されています。イングランドでは1348年にガーター騎士団を創設した際にこの旗を国内に取り入れ、その後聖ゲオルギウスが守護聖人として敬われるようになったようです。それは、1552年にセントジョージ・クロス以外の旗の使用が禁じられることで確立します。ちなみにジェノヴァの守護聖人は聖ゲオルギウスではなく洗礼者ヨハネです。
そういえば、アメリカのユタ州にあるザイオン国立公園へ行った時に、泊まった町がセントジョージSt.Georgeでした。この地名は聖ゲオルギウスとは無関係ですが。
ついでに、ロンドン市の旗は、セントジョージ・クロスの左上にロンドンの守護聖人である聖パウロの象徴の剣が描かれたものです。また、東ヨーロッパのジョージアはその国名と聖人の結びつきから、国旗としてセントジョージ・クロスに4つの十字を加えたエルサレム十字を使用しています。さらに、ジョージアの国の紋章には聖ゲオルギウスが描かれているのですが、ロシアの紋章にもまた同じように聖ゲオルギウスを見ることができるのです。
ジェノヴァとイングランドの関係をもうひとつ。ジェノヴァにはイタリアで最古[3]1893年9月3日創設のサッカークラブ、ジェノア・クリケット・アンド・フォットボールクラブGenoa Cricket and Football Clubがあります。もともとはジェノヴァ在住のイギリス人向けの施設としてつくられたため、クラブ名は英語[4]当初はGenoa Cricket and Athletic Clubという名称です。かつてカズこと三浦知良選手が所属[5]日本人初のセリエAプレーヤーとして1994年から1年間していたのを覚えている方も多いでしょう。
最後にジェノアというカクテルについて、私の知っているつくり方。
ベースはイタリア特産のグラッパ。これを1.5オンス、やはりイタリアのリキュールであるサンブーカ[6]ニワトコ属の花や実をスピリッツに浸漬してつくるリキュールとマルティーニ社のドライ・ベルモットをスプーンで2杯ずつ。よくシェークして、氷を入れたロックグラスへ注ぎます。