春のはじめに強い芳香とともにかわいい花をつけるのがジンチョウゲです。中国が原産の常緑低木で、ジンチョウゲ科ジチョウゲ属の植物になります。ジンチョウゲ属には50以上の種があり、アジアからヨーロッパ、北アフリカに分布しています。その花の共通した特徴は先が尖った4枚または5枚の花びらのように見える萼片があるところです。色は白から濃いピンク、それに黄緑などになります。ジンチョウゲの場合には、つぼみの頃は鞘のような形で寄り集まり開花するとボール状になり美しさが際立ちます。
ジンチョウゲ属の学名はdaphne(ダフネ)。これはギリシャ語でゲッケイジュを意味する言葉です。ギリシャ神話の中には、太陽神アポロンがエロス(キューピッド)の報復によってダフネを愛して追いかけるようになるものの、拒絶したダフネはその父に頼んでゲッケイジュの木に変身してしまい、その後アポロンは愛の証として常にゲッケイジュの枝を身につけるようになったという話があります。
実は、ほかにもギリシャ神話由来の植物名はたくさんあるんです。たとえばセイヨウノコギリソウはトロイ戦争の英雄アキレスの兵士たちが切り傷の治療のため用いたとされるためアキレアの名がつきました。またナルシストの語源ともなった美少年ナルキッソスの名前がそのまま学名となったスイセンやアポロンが誤って殺してしまった少年ヒュアキントス(ヒヤシンス)は有名です。また、アフロディテとペルセポネという女神たちの争いの末に殺された、こちらも美少年のアドニスが流した血からアネモネの花が咲いたといわれています。ただし、adonisはフクジュソウ属の学名になっており、アネモネは風の意味のギリシャ語アネモスが語源だそうです。
ゲッケイジュ属の学名はdaphneではなくlaurus(ラウルス)。英語名はlaurel(ローレル)です。煮込み料理などに使うゲッケイジュの葉として馴染みがあるのではないでしょうか。なぜdaphneからlaurusになったのかというと、ギリシャ語からラテン語に単語がもたらされる過程でdがlに変転することがあったのだとか。その後にも少しずつ変化しながら定着したのではないかと思われます。
ゲッケイジュは、アゾレス諸島やマデイラ島で多く自生していることが知られていますす。面白いのは、laurel単体ではゲッケイジュを意味するのに、laurel forestとなった場合は、ゲッケイジュの森ではなく照葉樹林を指すことです。照葉樹林とは、主に亜熱帯地域に見られる常緑広葉樹の森で、シイやアラカシなどの光沢のある細長い葉を持つ樹種で構成されています。マデイラ島の照葉樹林はその9割が原生林だといわれ、世界遺産にも登録済みです。
実は、ローレルジンチョウゲなる植物があります。学名はDaphne laureolaでゲッケイジュのようなジンチョウゲという意味です。ややこしい名前がついたのは、ジンチョウゲ属の中で葉が大きく光沢があり、ゲッケイジュに似ているからでしょう。常緑低木としてヨーロッパの広い地域に自生しています。樹液に強い毒があるため有害植物という扱いです。