よく「日本人のソウルフード」とか、「〇〇県人のソウルフード」などという言葉を耳にします。ソウル=魂から、その土地では誰もが知っていて、好んで食べられてもいる、国民食、県民食あるいは国や地域を代表する食べ物というような意味で使われるのでしょう。しかし、これはそもそも英語のSoul Foodソウルフードの本来の意味とはまったく異なるので、注意が必要かと思います。日本以外、とりわけアメリカでは間違って伝わるということです。ソウルフードのソウルとは、Soul Musicソウルミュージックで知られるように、アフリカ系アメリカ人の文化であり彼らの誇りや本質を意味します。つまりソウルフードは、主にアメリカ南部で暮らしたアフリカにルーツを持つ人々の伝統料理のことなのです。アメリカの食文化を象徴する料理のひとつであり、歴史的にも大事な言葉といえるので、正しく知っていたほうがいいですよね。当初は、奴隷としてアフリカから強制的に連れて来られた彼らの文化や生活様式はあまり知られていませんでした。でも、時代とともに理解されるようになり、次第に根付いていきます。それが1960年代ごろから国内で広く認知されていき、この言葉もすっかり定着したのです。中でも1962年にシルヴィア・ウッズがニューヨークのハーレムに開店したソウルフード・レストラン”Sylvia’s”「シルヴィアズ」は多くの著名人が訪れるなど人気を博し、各地に同様のレストランが現れることになります。こうしてソウルフード自体の存在がアメリカ全土で当たり前のものとなっていきました。
その昔、奴隷や使用人として粗末な生活を強いられた彼らの食事は、白人があまり食べない家畜の内臓や豚足、牛舌、ナマズ、風味の強いケールやコラードグリーン[1]結球しないアブラナ科の野菜などの青菜類が一般的でした。19世紀に奴隷制が廃止されて自立するようになっても、まだ貧しく立場の低かった人々は、手に入る食材で伝統的調理法をさらに発展させていきます。その料理では、肉は鶏や七面鳥や豚が多く、サツマイモやオクラなどを加えた野菜と豆が中心。フランス発祥のアンドゥイユandouilleという二度燻製するスモークソーセージもよく食べます。高温多湿のアメリカ南部は小麦の生産が盛んでないため、主食となるのはトウモロコシ。乾燥して挽いたコーングリッツCorn gritsやコーンミールCorn mealと呼ばれる粉を種々の料理に使うのです。グリッツは粗めでミールはより細かいのが違い。グリッツもミールもフライドチキン、フライドフィッシュなどの揚げ物の衣に用いますし、エビと合わせたシュリンプ・アンド・グリッツShrimp and gritsは定番。コーンミールに、卵や細かく切った具を混ぜ合わせ丸めて揚げたハッシュパピーHush puppies、甘くてカリカリ食感のコーンブレッド、パンケーキのように焼いたジョニーケークJohnny cakesはお手軽スナックとしてよく知られてます。
ちなみに、間違って使われている「ソウルフード」を英語で言いたい場合は、national dishネイショナル・ディッシュとかregional foodリージョナル・フード、あるいは代表的という意味でsignature foodシグネチャ・フードもいいでしょう。
ここでは、2種の簡単な料理をご紹介します。
※レシピはそれぞれ4人分
◆Smothered chickenスマザード・チキン
スマザーは蒸し煮にする料理のこと。鶏以外にも豚や牛、七面鳥、アヒルなどでもつくります。
●材料・下ごしらえ
鶏むね肉…400g
※皮を取り除き、横から包丁を入れて厚さが半分になるように同じぐらいの大きさに切り分ける
白胡椒…小さじ1/2
塩…小さじ1/2
小麦粉…大さじ4
ガーリックパウダー…小さじ1/2
オニオンパウダー…小さじ1/2
カイエンペッパー…ひとつまみ
オリーブオイル…大さじ1
タマネギ…1個
※薄切り
無塩バター…10g
野菜ブロス…200ml
ウスターソース…大さじ2
生クリーム…100ml
パセリ…4枝
※みじん切り
●つくり方
1.
鶏肉の両面に胡椒と塩を振り、擦り込むようにして5分ほど馴染ませる。
ボウルに小麦粉、ガーリックパウダー、オニオンパウダー、カイエンペッパーを入れてよく混ぜ合わ
せる。
その中で鶏肉の全体に粉を塗す。余った粉は取っておく。
2.
鍋にオリーブオイルを引き、鶏肉を並べる。
中火にかけて焼き色が付くまで両面を焼いたら肉を一旦取り出す。
3.
同じ鍋にバターを入れ、弱めの中火でタマネギを炒める。
タマネギが透き通ってきたら、野菜ブロスを加えて中火にする。
沸騰したら弱火におとし、1で余った粉を少しずつ加えてダマにならないようかき混ぜる。
生クリームを少量に分けて加えながら混ぜ合わせる。
4.
鶏肉を鍋へ戻してソースを全体に絡め、沸々してきたら蓋をして弱火で10分ほど煮る。
皿に肉を盛り付け、上から鍋のソースをかける。
さらに、ウスターソースをのせるようにかけてパセリを散らす。
付け合わせはマッシュポテトや茹で野菜を。
◆Mac and cheeseマッケンチーズ
Mac’n cheeseやMac ‘n’ cheeseなどとも表記されます。正しい料理名としたら、Baked macaroni and cheeseマカロニのチーズ焼きでしょうか。使うマカロニは細めや小さめがおすすめ。ちなみにマカロニはイタリア語ではmaccheroniマッケローニです。筒状のショートパスタを指しますが、かつてはマッケローニと言えばスパゲッティなどのロングパスタも含めたパスタ料理の総称でした。Pastasciuttaパスタシュッタと同義語という感じです。この料理は、本場ではチェダーを主体にモントレージャックやミュンスター[2]フランスのマンステールを模したウォッシュタイプチーズなどのチーズを数種使ってよりこってり味にする方が好まれています。ここでは手に入り易い2種のチーズで。マカロニを茹でながらソースをつくり、熱々のうちに耐熱皿に移して表面を焼くという行程でつくりましょう。
ちなみにアメリカでは、7月14日がNational Mac and Cheese Dayマッケンチーズ記念日とされ、全国的に家庭で食べられるのはもちろん、この料理を提供するレストランなどで様々なサービスがおこなわれることでも知られています。
●材料・下ごしらえ
マカロニ(乾燥)…200g
バター(無塩)…30g
小麦粉…大さじ2
牛乳…400ml
ピーマン…1個
※1㎝角ぐらいに切る
コーン(缶詰)…40g
ベーコン…50g
※1㎝幅ぐらいに切る
塩…小さじ1
黒胡椒…ひとつまみ
チェダーチーズ…40g(他のチーズでもOK)
※1cm角の賽の目切り
パルミジャーノ・レッジャーノ···40g(他のチーズでもOK)
※1cm角の賽の目切り
●つくり方
1.マカロニを商品の表示の通りに茹でる。
鍋を弱火にかけてバターを入れる。
バターが溶けてきたら小麦粉を振り入れて混ぜ合わせる。
牛乳を流し込み滑らかになるまで潰しながらよく混ぜる。
2.茹で上がったマカロニをザルにあげて湯をよく切る。
鍋の火加減を中火にしてマカロニ、ピーマン、コーン、ベーコンを加え、ぐつぐつしてきたら塩と胡椒を足して全体を軽く和える。
3.耐熱皿に移し、チーズを満遍なくのせる。
グリルやオーブントースターで、チーズがとろけて表面に焼き色が付くまで5分ほど焼く。