ツツジ

歩道や公園、住宅、学校、オフィスビルの植え込みなどでもっとも多く利用されている低木の代表格といえばツツジでしょう。春から初夏にかけて赤や白やピンク、それに黄色やオレンジなどさまざまな色のたくさんの花を一斉に咲かせて町を彩ります。性質も強健で、手入れも簡単なうえ移植も容易なため園芸材料としては欠かせない存在です。刈り込みに耐え、どこからでも新しい葉が出てくるのでかたちも整えやすいのが特徴。東京では根津神社のツツジ祭りが知られていますが、全国各地にツツジを植えた公園などがあって、見頃には一面に咲き誇る絶景を見せてくれます。
日本ではもともと野山にたくさんのツツジが自生していて、それを交配することで園芸種ができました。日本の広い地域の自然の中でよく見られるのはヤマツツジRhododendron kaempferiです。江戸時代に盛んに交配がおこなわれて全国に広まったキリシマツツジRhododendron obtusum var. obtusumは鹿児島県の霧島山が故郷で、ヤマツツジとミヤマキリシマRhododendron kiusianumの自然交雑種といわれています。また、生垣などで身近なサツキRhododendron indicumも日本の自生種です。ほかのツツジよりも開花期が遅く、旧暦の5月ごろに花をつけるためサツキの名があります。これも江戸時代以降に栽培が盛んにおこなわれ、花の色や形の違うさまざまな品種が次々と生まれました。現在ではその数は2,000を超えるそうです。

左:キリシマツツジ / 右:サツキ

ツツジと総称されるのは、ツツジ科ツツジ属の植物です。ツツジ属の学名はRhododendronロードデンドロン。これはギリシャ語のrhodonバラと dendoron木が組み合わさった名前。バラ色の花をつける樹木という意味です。世界中で1,000種以上の野生種が確認されています。そのほとんどは北半球にあり、分布は性質を象徴するように自生地はとても広いのが特徴です。ネパール、シッキムといったヒマラヤの山岳地帯からボルネオ島、ニューギニア島などの熱帯地域にまで見られます。
ツツジ科Ericaceaeに含まれる樹木は非常に幅広く、高木から低木それに常緑も落葉もあります。なかにはカルミアやアセビなどなんとなく同じ系統だとわかる仲間もいますが、エリカやナツハゼ、ブルーベリー、クランベリーといった一見してツツジとは関連がないように見えるものも数多くあります。

左:ブルーベリー / 右:エリカ

そのひとつがドウダンツツジ属。ドウダンツツジEnkianthus perulatusは丸いスズランのような形の小さい花を枝先にぶら下げるようにして咲かせる低木です。もともとは灯台躑躅(トウダイツツジ)という名であったものが転訛してこのようになったといわれます。灯台というと夜の海に標識となる明かりを思い浮かべ、なんとなく花の形がそのようなイメージなのかと考えがちです。でもここでの灯台とは、3本の棒をひもで束ねて足を広げ、上部に油皿を載せそこに火をともす昔の室内照明器具のこと。ことわざ「灯台下暗し」のあれです。ドウダンツツジの枝先がどれも同じ長さで均等に分かれる姿が似ていることから名づけられたのだとか。

ドウダンはほかの多くのツツジと違って落葉します。葉を落とす前に鮮やかな赤に染まるとことも特徴です。春には花を、そして淡い緑の葉を茂らせ、秋には紅葉を楽しめるというので、園芸用の樹木として人気があります。病気や害虫にも強く萌芽力が旺盛で育てやすい樹種です。和風の庭では主に小さく刈り込んで列植するか、一株で球状に仕立てます。反対に洋風の庭では大き目の自然樹形のまま単植するのもいいでしょう。
ドウダンにはサラサドウダンEnkianthus campanulatusという仲間がいます。房状につく花の数がふつうのドウダンよりも多く、さらに花びらの先が浅く割れるところが違いです。また花の色も白に赤い筋が入りかなり華やかな印象を受けます。名前のサラサとは更紗のことです。花の模様から連想されてその名がつけられたらしいのですが、「更紗」自体の言葉は知っていてもあまりなじみがなくイメージしにくい気がします。調べたところインド発祥の染め織物の総称でした。何枚もの型紙を使って複雑な模様や色を組み合わせて1枚の布にしていく手法で、日本のものは和更紗とか江戸更紗と呼ばれるそうです。サラサドウダンもそのような繊細で奥深い模様ということなのでしょう。

左:ドウダンツツジ / 右:サラサドウダン