トルコギキョウ

切花としての需要が定着して、周年で出回っている花のひとつがトルコギキョウです。リンドウ科の一年草に分類され、本来は春から夏にかけて花をつけます。その時期になると花屋さんの店先にはポット苗や開花株も並んでいるでしょう。トルコギキョウという名前が付いていますが、不思議なことに、この植物はトルコ原産でもなく、キキョウの仲間でもありません。しかし、どうしてこの和名がついたのかは諸説あり、はっきりしないようです。実際の原産地は北アメリカの南部から、南アメリカの北部にかけて。それが昭和の初めごろに日本へ持ち込まれて、さまざまな品種改良がおこなわれました。1980年代にF1種[1]First Firial雑種第一代・一代のみの交配種なので種子ができないかできても同じ子供にはならないが開発されたことから、品種数が飛躍的に増えたそうです。もともとの花は一重咲きですが、現在よく目にするのは大半が八重咲きで、一重咲きも覆輪[2]花弁の周囲だけに色があるの品種が多いと思います。釣り鐘型の花が上向きに多数付き、花色も紫、ピンク、オレンジ、黄、白と非常に豊富なので、華やかな印象があり人気の高い花です。トルコギキョウ属Eustomaにはグランディフロルムgrandiflorumとエクサルタトゥムexaltatumの二種しか存在しないことになっています。園芸品種として利用されているのは、花がおおぶりなのでその名があるグランディフロルムのほうです。トルコギキョウは、根から出す物質がほかの植物の成育を阻害したり、あるいは自家中毒を起こしたりするといわれ、栽培の難しい植物とされてもいます。

左:エクサルタテゥム / 中・右:グランディフロルム

トルコギキョウと同じリンドウ科Gentianaceaeの植物は、世界中に幅広く分布しています。よく知られているようにリンドウは漢字では「竜肝」と書き、これは中国語からそのままの音読みです。薬効のある根がまるで竜の肝のように苦いというイメージからこの名があるとのこと。日本でも古くから様々な効能が知られて、生薬として利用されてきました。
ヨーロッパでも、リンドウ属はゲンチアナGentianaの名前で薬用として使われています。ゲンチアナとは、その強壮性をはじめて記録した古代イリリアIllyria[3]現在のスロヴェニアやクロアチア最後の王ゲンティウスGentius[4]在位:紀元前181-168の名から付けられたものです。ヨーロッパには薬草や樹皮などを使った苦いリキュールが多々あり、氷やソーダを足して食前酒として飲んだり、そのままを食後酒として飲んだりします。イタリアでは苦いという意味のAmaroアマーロと総称されるそんなリキュールには、原料のひとつとしてリンドウを使っているものが少なくありません。銘柄としてはアペロールAperol、アメール・ピコンAmer Picon、アマーロ・ルカーノAmaro Lucano、世界一苦いと言われるフェルネット・ブランカFernet Branca、それに日本でもよく飲まれているカンパリCampariにもリンドウが使われています。また、フランスでもアヴェズAvèze、ボナールBonalといった同様のリキュールがあり、緑と黄色で知られるシャルトリューズChartereuse社が出しているLiqueur de Gentiane des Pères Chartreuxリキャー・デゥ・ジェンシャン・デ・ペーレ・シャルトリューズはリンドウが主原料で、ボトルにリンドウの根が描かれています。

一方キキョウPlatycodon grandiflorusは秋の七草のひとつに数えられ、日本の夏を彩る昔ながらの花の代表格といえます。花弁が5つに裂けて星型に広がるように見えるものの、実はアサガオなどと同様に一枚の花びらからなる合弁花なのです。つぼみの時には花弁の先がくっついてボールのような形になり、だんだんと膨らんでいき、最後に割れて広がるという珍しい特徴があります。このため英語名はバルーンフラワーです。
キキョウは一属一種[5]キキョウ属にはキキョウ一種しか存在しないですが、キキョウ科Campanulaceaeには、ツリガネニンジンやホタルブクロなどの日本的でかわいい野草の仲間がいっぱいいます。

References

References
1 First Firial雑種第一代・一代のみの交配種なので種子ができないかできても同じ子供にはならない
2 花弁の周囲だけに色がある
3 現在のスロヴェニアやクロアチア
4 在位:紀元前181-168
5 キキョウ属にはキキョウ一種しか存在しない