ハナミズキ

小さい庭にシンボルツリーとして1本だけ木を植えたいとしたらどんなイメージでしょうか。「花が咲いて、実がなって、紅葉して、手間がかからなくて…」というような希望が多いと思います。すべてが当てはまって人気の樹種がハナミズキCornus floridaです。大きくなりすぎないので単植にも列植にも向き、挿し木や接ぎ木で比較的簡単に増やすことができることもあり、園芸樹木として確固たる地位を築いています。この木が、東京からアメリカへ贈られたサクラの返礼として届けられたことは有名な話です。ミズキ科で花が美しいことからハナミズキと名付けられました。別名は、日本の在来種のヤマボウシCornus kousaに似ているということでアメリカヤマボウシといいます。時々、どこかで間違ってアメリカハナミズキという表記で販売されていることも。ハナミズキとヤマボウシの花で、4枚の花びらに見える部分は、実は総苞(そうほう)と呼ばれる花を支えて守っているものです。本当の花は中心部にある小さな粒々。ハナミズキの総苞片は先端がへこんでいるのに対して、ヤマボウシは尖っています。それとハナミズキは細長いサクランボのような実をつけますが、ヤマボウシの実はたくさんの実が密集して団子状になった複合果です。

左:ハナミズキ / 右:ヤマボウシ
左:ハナミズキ / 右:ヤマボウシ

樹高が高くなるのであまり住宅の園芸用には使われませんが、ミズキ科を代表するミズキCornus controversaという木があります。垂直に伸びた枝の先から5本の枝が水平に出て、さらにそれが2つに分かれることを繰り返しながら扇形に広がっていき、横から見ると枝の層が階段状に重なった樹形になるのが特徴です。特に萌芽の時期に大量の水を吸い上げ、枝を折ると樹液が滴ることからミズキの名が付いたのだとか。
ヨーロッパでは、地中海から黒海沿岸地域を中心に自生しているセイヨウサンシュユCornelian cherry(学名Cornus Mas)という仲間がいます。材が硬くて水に沈むくらい密度が高いため、古代から武器や道具に幅広く利用されてきました。また、その実は食用となり、ジャムやドライフルーツに加工されて流通しています。

セイヨウサンシュユ

ハナミズキは英語でdogwood。なぜイヌの木なのかを調べましたが、信用できそうな答えは見つかりませんでした。日本では、ツゲ>イヌツゲ、マキ>イヌマキ、ビワ>イヌビワ、カヤ>イヌガヤ、コリヤナギ>イヌコリヤナギなどイヌの付けられた樹種はたくさんあります。その多くは、食用にならないとか木材としてつかえないとか利用価値が低い場合に付けられている名前です。イギリスやアメリカでも同様の考え方があり、Dog rose(イヌバラ)、Dog fennel(カミツレモドキ)のように花や実や材の品質が劣るという意味でつけられたのかもしれません。