バッファロー・ビル / Buffalo Bill

アメリカのプロフットボールリーグNFL(National Football League)にバッファロー・ビルズBuffalo Billsというチームがあります。AFC[1]アメリカン・フットボール・カンファレンス NFLに2つある競技連盟のひとつの東地区[2]各連盟にそれぞれ東西南北4つの地区所属の古豪です。特にクウォーターバック(QB)にジム・ケリーJim Kelly、ランニングバック(RB)にサーマン・トーマスThurman Thomasというスター選手を擁した時代はノーハドル[3]攻撃の際に円陣を組まずに素早く展開する戦術を多用した戦いで躍進し、1988年から1995年の8シーズンに6度の地区優勝を経験しました。現時点[4]2024年で4年連続(1990~93)のスーパーボウル進出というNFL記録を持っていますが、残念ながら4連敗なんです。2000年代に入って長く低迷の時期を経験してきたものの、近年はQBジョシュ・アレンJosh Allenの活躍もあってプレイオフの常連になっています。初のスーパーボウル制覇も狙えるかもしれません。

ビルズは、ニューヨーク州の西、エリー湖に面する都市バッファロー近郊を本拠にしています。有名なナイアガラの滝を観光する際のアメリカ側からの入口になる場所です。ちなみに五大湖のひとつエリー湖は25,700㎢もあり、これは青森県と岩手県を合わせた広さに匹敵します。このチームが動物のバッファローをモチーフにしたロゴをヘルメットに付けているのは、地名との関わりによるのだと推測可能です。でも「ビルズ」という愛称にどういう意味があるのかはずっとわかりませんでした。

かつて、まだケリーやトーマスが活躍する少し前のことです。運よく、自ら企画した仕事でアメリカ西部の国立公園を巡ることになりました。その旅行中に、イエローストーン国立公園へ行くための玄関口として宿泊したのがワイオミング州のコーディCodyという町。小さいけれどきれいに整備された町には、西部開拓時代の歴史的建造物も残っています。その町のあちらこちらで目にしたのが、バッファロー・ビルという言葉でした。ホテルで聞いてみると、博物館があるからそこへ行けば詳しく知ることができるといいます。早速訪ねることに。なるほど、確かによくわかりました。
バッファロー・ビルとは、19世紀(1846-1917)の人物で、本名をウィリアム・フレデリック・コーディWilliam Frederick Codyといいます。早くに父を亡くした彼は、15歳からポニーエクスプレス[5]馬に乗りリレー形式で配達する郵便の配達員を務めたそうです。そして、南北戦争で活躍したのち、西部に展開していたカンザス・パシフィック鉄道の労働者を相手に、バッファローの肉を食用として販売することになります。

左:バッファロービルの博物館の案内・なぜか日本語もあり 右:コーディで開催されていたロデオのリーフレット

ここでいうバッファローとは、アメリカバイソン(学名:Bison bison)のことで、かつてはアラスカからメキシコまで幅広く分布していたといわれます。でも、現在は一部の国立公園でのみしか見ることができません。17世紀以降に西部へ進出した人たちが、農地開拓の邪魔者として、食用や皮革利用のためとしてバッファローの狩猟をはじめます。やがてレジャーも含めた乱獲につながり、個体数が激減していったそうです。ちなみにワイオミングの州旗にはバッファローが描かれています。
コーディは食肉にするために何千頭ものバッファローを狩ったので、バッファロー・ビルと呼ばれるようになりました。彼の大暴れは小説化され、舞台化され、その名はアメリカ東部でもよく知られるようになります。コーディはワイルド・ウエスト・ショーという西部開拓を題材にした見世物を提供する一座を結成し、アメリカ国内はもとより、ヨーロッパ各地へも出かけていきました。カウボーイやネイティブ・アメリカンが登場し、射撃に投げ縄、ロデオのように馬や牛を扱う技などが披露され、見た人の西部への興味をかきたてたのです。それはのちの西部劇映画へと受け継がれていきました。

バッファロー・ビルズなるチーム名は、チーム公式サイトによれば公募によって決められたとあります。NFLとは別に、1940年代に存在したAAFC[6]All American Football Conferenceというリーグでのこと。結成当初はバイソンズBisons[7]バッファローと同じ動物だったものを変更するために公募し、ビルズに決まったそうです。50年代にはバッファローにはプロフットボール・チームはなく、1960年にAFCの前身AFL[8]American Football Leagueに参加するチームを再編成した際に、元の愛称を継承したのだとか。そういうわけで、日本の認識とは違い、アメリカではバッファロー=ビルというのは、誰もが知っていると言ってもいいぐらい当たり前なのかもしれないと思った次第です。
実はその後に観たのですが、ポール・ニューマン主演のバッファロー・ビルを描いた映画(1977年日本公開)がありました。監督は「M★A★S★H マッシュ」(1970年日本公開)、「ロング・グッドバイ」(1974年日本公開)、「ナッシュビル」(1976年日本公開)などで名声を博していたロバート・アルトマン。原題は”Buffalo Bill and the Indians, or Sitting Bull’s History Lesson”「バッファロー・ビルとインディアンたち、またはシッティング・ブル[9]ラコタ族ハンクパパに属した先住民でワイルド・ウエスト・ショーに出演していたの歴史授業」となっているものの、邦題は「ビッグアメリカン」です。

References

References
1 アメリカン・フットボール・カンファレンス NFLに2つある競技連盟のひとつ
2 各連盟にそれぞれ東西南北4つの地区
3 攻撃の際に円陣を組まずに素早く展開する戦術
4 2024年
5 馬に乗りリレー形式で配達する郵便
6 All American Football Conference
7 バッファローと同じ動物
8 American Football League
9 ラコタ族ハンクパパに属した先住民でワイルド・ウエスト・ショーに出演していた