初冬から初夏まで比較的長い期間にわたって庭の彩りとなってくれるのがパンジーです。一般にパンジーとは、ヨーロッパの原種ビオラ・トリコロールViola tricolorをベースにして、さまざまに交配を繰り返してつくられてきた花の総称ということになります。ビオラ・トリコロールは、紫、白、黄色という三色の花びらから付けられた学名で、日本名はそのまま和訳したサンシキスミレです。英語では、成長が速くてすぐに花茎が立ち上がる姿からジョニー・ジャンプ・アップJohnny-jump-up[1]Johnnyは擬人化しただけで特定の人の名ではありませんや心の平安を意味するハーツィーズheartseaseなどのいくつもの呼称があります。ウェブ版Merriam-Webster辞典によれば、pansyの名はラテン語で熟慮するという意味のpensareから派生した、思考などの意の中世フランス語penséeや中期英語pancyを語源とするようで、15世紀にはこの花を示す言葉として登場したらしいです。花が人の顔みたいに見え、鎌首のような茎の先に少し下向きに咲く形が、ものを考えている姿に似ているということによります。
日本でビオラというと、園芸種の中で小ぶりなパンジーのことを呼ぶようになっているものの、元来はスミレ科全体を指す学名です。スミレ科スミレ属の植物は全世界に500種類以上もあるといわれます。日本にもそのうちの100を超える種が自生しているとか。単にスミレというと道端でも見られる濃い紫の小さな花をつける葉が細いタイプのものです。もっと幅広く野山にも多く見られるのは薄紫色の花に丸い葉がつくタイプのタチツボスミレViola grypocerasのほうかもしれません。パンジーは交配を重ねた結果、色とりどりの品種ができあがりました。もともとの三色の系統からピンク、赤、青が生まれ、オレンジや黒まで出回っています。さらに耐寒性や耐暑性もでき草丈は伸びずに次々と花をたくさん咲かせるタイプも増え、園芸には欠かせない素材になったといえるでしょう。
花が枯れたら早めに花がらを取ってあげると後からどんどんと新しい花茎が出てきます。咲き終わった花をそのままにしておくと結実をします。スミレの仲間は房の中にゴマのような小さな種子をたくさんつけ、乾燥するとそれを自然にはじきとばすのが特徴です。ただし、たいていの場合、園芸種はF1[2]first filial 雑種第一代と呼ばれる交配種のため、種子自体ができないか、種子はできても発芽しません。仮に発芽して花をつけるようになっても、親とは同じ花をつけることはないのでご注意を。