夏休みの強烈な日差しが似合う植物といえばヒマワリHelianthus annuusです。最近は切り花や鉢植え向きの小型の品種も多く出回っていますが、やはりヒマワリのイメージは背丈よりも高い大輪の花でしょう。キク科の植物の特徴で、大きなひとつの花に見えるのは実際は小さな花の集まり。周囲の黄色い1枚ずつの花びらのように見える部分は舌状花、中心のやがて種になる部分は筒状花と呼ばれる二種類の花の組み合わせです。このようにたくさんの花が、枝や茎を介さずに先端に集まって咲くものを頭状花序といいます。
すっかり日本の夏にも定着しているヒマワリですが、その原産地は北アメリカで、5000年ほど前からアメリカ先住民によって育てられていたとされます。種子を食べるだけでなく、花や種子から染料を作ったり、葉や根を薬用にしたりしていました。乾燥させた太い茎は建材として利用したとか。16世紀にスペインの探検家が持ち帰ったものの、当初は観賞用としてのみ栽培されていたそうです。それが徐々にヨーロッパ全土に広まり、食用としても流通するようになりました。日本には17世紀に中国からもたされています。
1970年に公開された、ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」[1]ヴィットリオ・デ・シーカ監督では、タイトルどおり画面いっぱいに広がるヒマワリ畑の風景が何度も映し出され、ヘンリー・マンシーニのテーマ曲とともに強烈な印象を残しました。イタリア語の原題は”I Girasoli”イ・ジラゾーリ。ヒマワリを意味するこの単語は、回転するgirareと太陽solの組み合わせです。ヒマワリは、フランス語ではtournesolsトゥルネソル、スペイン語ではgirasolヒラソルでイタリア語と同じ表現。この映画は第二次世界大戦後のソ連が主な舞台で、実際の撮影もソ連時代のウクライナで行われたそうです。どこまでも続く畑が車窓を流れるシーンや、背丈を超える高さのヒマワリの中を慰霊碑へと向かうシーンなど、この映画で初めてヒマワリ畑というものを見て、それが食用のためであることを知りました。2019年のヒマワリの生産量では、ロシアが世界1位、ウクライナが2位、二国で世界全体の半分以上と圧倒的なシェアを誇ります。日本では食用のヒマワリは生産していません。
ロシアでヒマワリ栽培が盛んになったのにはわけがあります。ロシアだけでなく東方正教会では、年に4回の食事制限期間があり、その間は動物、魚それに植物も含む油脂の摂取ができません。しかし、ヒマワリは禁食品目のリストに載っていなかったため、食事制限期間も合わせた常食として広く利用されることになりました。現在では、その生産はほとんどが食用油の原料となっています。ちなみにロシアの国花はヒマワリです。ロシア語でヒマワリはподсолнечникパッツォニシニク。подが下、солнцеが太陽を意味します。
日本語や各国語の名前の由来でもあり、またよく知られているように、ヒマワリは太陽の動きに合わせて花が回ります。ただし、常に動いているわけでもなく、太陽に向かうのはまだ花が完全に開花する前の生長段階においてです。開ききった花は、運動をやめます。ヒマワリがたくさん咲いているところを見ると、それぞれが違う方角を向いていたり、同じ方角を向いていても太陽の方向ではなかったりすることがわかるでしょう。
ヒマワリと言えばフィンセント・ファン・ゴッホVincent van Goghですね。ゴッホの作品として知られている「ヒマワリ」は、1888年8月に描いたとされる4枚とその模写の3枚。南仏はプロヴァンスのアルルに咲いていたヒマワリです。
アルルでゴッホと共同生活をしていたポール・ゴーギャンPaul Gauguinは、ゴッホがひまわりを描く姿を絵にしました。また、彼は1901年ごろに描いたとされるほぼ同じ構図の2枚のヒマワリの絵も残しています。
References
↑1 | ヴィットリオ・デ・シーカ監督 |
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