ピッツバーグ / Pittsburgh

アメリカ東部のペンシルベニア州は、”The Keystone State”「要石[1]アーチを中央で支えるくさび形の石の州」と呼ばれます。それは、アメリカ独立の際に13植民地の中心となり、合衆国建国に繋がる重要な役割を果たしたからです。横長の長方形のような形をした州の南東端、ニュージャージー州に接する場所にあるのは、独立宣言の街として知られる州最大の都市フィラデルフィア。反対に西のオハイオ州との州境近く、フィラデルフィアから約300マイル[2]約480kmの距離に位置するのがピッツバーグです。アレゲニー川とモノンガヒラ川が合流してオハイオ川となる地点にあります。ここは、言わずと知れた”steel city”「鋼鉄の街」。古くから鉄鋼業が盛んで、アメリカを工業大国へと押し上げた重要な拠点のひとつなのは間違えありません。

ピッツバーグには.MLB[3]メジャーリーグ・ベースボールのパイレーツPirates、NHL[4]ナショナル・ホッケー・リーグのペンギンズPenguins、NFL[5]ナショナル・フットボール・リーグのスティーラーズSteelersが本拠を置きます。いずれも優勝経験豊富な、強豪と言って差し支えないチームです。そしてどのチームも、市の色である黒と金色がチームカラー[6]パイレーツは1947年まで青と赤、ペンギンズは1979年まで青と白になっています。NBA[7]ナショナル・バスケットボール・アソシエイションとMLS[8]メジャーリーグ・サッカーのチームはありません。

パイレーツの本拠地PNCパーク

パイレーツは5度[9]2024年時点のワールドチャンピオンを誇るナショナルリーグの名門。ピルボックスと呼ばれる円筒形で頭頂部が平らなキャップ(☟ピエロギ左画像)で知られました。現時点で最後にワールドシリーズに優勝したのが1979年。その時にMVPにも選ばれたパイレーツ一筋のスーパースターが、ウィリー・スタージェルWillie Stargellです。1988年に野球殿堂入りした名選手の背番号8はもちろん永久欠番。
MLBの実況中継でよく耳にするのが、地元チームの活躍する場面で叫ばれるチームごとの様々な決まり文句。パイレーツ戦では、キャスターのグレッグ・ブラウンがホームランの際には“Clear the deck, cannonball coming!”「甲板を空けろ、砲弾が来るぞ!」、勝利の際には “Raise the Jolly Roger” 「海賊旗を掲げろ!」と声を張り上げます。

野球もホッケーも人気スポーツですが、ピッツバーグと言えばやはりスティーラーズでしょう。チーム名がピッツバーグの象徴ともいえる「鉄鋼業者」。熱狂的なファンの応援で有名てす。QB[10]クォーターバックテリー・ブラッドショーTerry Bradshaw[11]#12が君臨した1970年代には、DT[12]ディフェンスタックル「ミーン」ジョー・グリーン”Mean”Joe Greene[13]#75、出身であるノーステキサス大学のスポーツチームの愛称が「ミーン・グリーン」、LB[14]ラインバッカージャック・ハムJack Ham[15]#59、LBジャック・ランバートJack Lambert[16]#58、CB[17]コーナーバックメル・ブラントMel Blount[18]#47を中心とした守備陣による、「スティールカーテン」”Steels curtain”と呼ばれた鉄壁のディフェンスを擁して4度[19]1974年,1975年,1978年,1979年のスーパーボウル制覇を成し遂げています。さらに2000年代にはQBベン・ロスリスバーガーBen Roethlisberger[20]#7の活躍もあって2度[21]2005年,2008年スーパーボウル を獲得。ちなみにピッツバーグにあるPippi’sというサブマリン・サンドイッチの店が”The #7″(Roethlis”burger”)なる食べ応えあるサンドイッチを販売しています。

右:左からイリノイ州旗・国旗・ピッツバーグ市旗

日本でNFLが紹介されるようになったのが1970年代です。テレビで試合のハイライト主体の番組が放送され、各チームのロゴやヘルメットがデザインされた文房具やアパレルが世の中に出回りました。当時は、1971年からスーパーボウルを2連覇したマイアミ・ドルフィンズMiami Dolphinsと、上述のように黄金時代を築いていたスティーラーズが人気を二分する勢いだったことを思い出します。
その頃、ピッツバーグの場所を知ろうと図書館でアメリカの地図帳を探し、ぺンシルべニア州の地図を開きました。ペンシルベニアには、州都ハリスバーグHarrisburgや南北戦争で有名なゲティスバーグGettysburg、それにグリーンズバーグGreensburg、ルイスバーグLewisburg、エベンスバーグEbensburgなどといったたくさんの「バーグ」が存在します。ところが、ピッツバーグだけは他の地名と違って最後にhが付いているのです。これが何とも不思議でした。 

その後調べてみると、バーグburgは、ハンブルクHamburgやローテンブルクRothenburgやアウグスブルクAugsburgといったドイツの地名にあるように、古高ドイツ語由来の城壁都市や城塞都市を意味。なのでアメリカでも多くの都市名になっていることがわかりました。そして、18世紀のフレンチ・インディアン戦争(1754-1763年)の際、この地に建設された砦はチャタム伯ウィリアム・ピット(大ピット)[22]イギリス首相・在任1766-1768年の名を冠してピット砦と呼ばれたこと、さらに入植地そのものにもピットの名が付けられたことが判明。名付けたのが当時イギリス軍を率いていたジョン・フォーブス准将です。彼はスコットランド出身であったため、ピッツバラPittsburghとしたのだとか。エディンバラEdinburghと同じです。このburghもイングランドのバラboroughもburgから変化したもの。いずれも行政区や市や町の意味で使われます。しかし、ピッツバラの読み方が浸透せず、Pittsburghと綴ってもピッツバーグと読むのが正式となったのです。一時期最後のhを外していた期間があったものの、1911年に元通りの綴りが復活しました。なお、カンザス州やカリフォルニア州にもピッツバーグという街がありますが、綴りはPittsburgです。
地名を短縮してabbreviation(略号)で表記することがあります。アメリカでもニューヨークのNYC、ロサンジェルスのLAとかは有名ですね。他にもシカゴはCHI、セントルイスはSTL、サンフランシスコはSFといった具合。ピッツバーグの場合はPGH。GHが主張しています。ちなみに、IATA[23]国際航空運送協会の定めるスリーレターの空港コードでは、ピッツバーグ国際空港はPITで、PGHはインド東部のパンタナガルPantanagar空港のコードです。

ピッツバーグには通称”Pittsburghese”「ピッツバーグ語」なる方言が存在します。スコッチ・アイリッシュ(スコットランド系アイルランド人)を主体に、ポーランドやウクライナなどからの移民の言葉が混じってできたと言われる”Western Pennsylvania English”「西ペンシルベニア英語」のことです。通常はyouのはずの二人称複数代名詞にyinzイェンズという単語を使うことからピッツバーグ語を話す人々は”Yinzer”「イェンザー」と呼ばれ、この単語は同時にピッツバーグ地域のブルーカラー住民のことも指します。

ピッツバーグのご当地グルメといえばピエロギPierogi。薄く伸ばした小麦粉の生地を円形にして具材を包み、焼いたり茹でたりする餃子のようなポーランドの名物料理です。これに似ている餃子風の食べ物は東欧を中心にヨーロッパ各国にも見られます。ウクライナのヴァレニキ、ロシアのペリメニ、ドイツのマウルタッシェ、イタリアのメッツェルーネやラヴィオリなど様々です。代表的なピエロギの具はひき肉とタマネギあるいはジャガイモとチーズ。ひき肉は豚、鶏、牛、七面鳥、アヒルとか。フライドオニオンやマッシュルーム、ザワークラウトが入っているのも多いかも。それとイチゴ、ブルーベリー、サクランボなどのフルーツを詰めたおやつ系も人気です。
ピッツバーグ・パイレーツの本拠地PNCパークでは、試合の5回終了時にグレート・ピッツバーグ・ピエロギ・レースという、6種のピエロギがグランド内を走って競争するパフォーマンスが行われています。
ついでですが、右下画像のBLITZ!というのは、ドイツ語で「稲妻」を意味し、狭義では第2次世界大戦でナチス・ドイツが機動力を活かして短期間で結果を出すために行った電撃作戦のこと。そこから派生してフットボールでは、主にクォーターバックに強いプレッシャーをかけようと人数を増やして突進する守備戦術がそう呼ばれます。

左:ピルボックスキャップ

✨ピエロギをつくりましょう
皮は焼き餃子よりは厚めで水餃子で使うぐらいのイメージ。普通の餃子よりはサイズが大きめなので材料の分量は1.5倍ぐらいにします。大きさは好みです。ここでは直径9cmのセルクルを使って型抜きをします。

●材料・下ごしらえ(20個分)
〈皮〉
強力粉…100g
※打ち粉用には別に用意
薄力粉…50g
ぬるま湯…60ml
オリーブオイル…大さじ1
〈餡とソース〉
ジャガイモ…2個(300g程度)
※皮を剝き乱切り
タマネギ…1/2個(50g程度)
※みじん切り
オリーブオイル…小さじ1
チーズ…150g(ハードタイプのフレッシュチーズをできれば2種)
※摩り下ろすか砕く
ここではパルミジャーノ・レッジャーノとチェダーを使います。
バター(無塩)…20g
ベーコン…50g
※みじん切り
パセリ…4枝
※みじん切り

●つくり方
1.皮をつくる
ボウルに強力粉と薄力粉を篩い入れる。
ぬるま湯を、5、6回に分けて少しずつ加えながら粉を混ぜる。
まとまってきたら、オリーブオイルをかけてなめらかになるまで捏ねる。
全体が均質になったところで球状にまとめる。
ボウルに濡れ布巾かけて10分休ませる。
生地を4等分に分ける。
打ち粉をしたこね台やまな板の上で、生地を1枚ずつ平たく伸ばしていく。
厚さ2mmほどに伸ばしたら端のほうからセルクルを押し付けて型抜きする。
1枚の生地から5個分をつくる。
細い棒状にした生地を切り分けて、麺棒などで伸ばす方法でもOK。

2.餡をつくる
ジャガイモを鍋に入れ、完全に被るぐらいの水を加えて火にかける。
フライパンにタマネギとオリーブオイルをを入れて中火で炒める。
タマネギが透き通って柔らかくなったら一度火を止めて、半量を取り出す。
残ったタマネギの鍋にベーコンとバター10gを入れて弱火で炒める。
タマネギが茶色になってきたら火からおろす。
ジャガイモの鍋の水が沸騰してから10分ほど経ったら、竹串などを刺してみて力を入れずに通ればOK。
湯を捨てて、ポテトマッシャーや木べらで潰す。
先に取り出したタマネギとチーズを加えてなめらかになるまで混ぜる。
20個分になるように大まかに分けておく。

3.包む
小さな容器に水を大さじ2程度用意する。
生地を1枚手のひらに置き、指で生地の下半分の縁に水を塗る。
中央に餡をのせて左右に楕円に広げ、生地の下側を持ち上げるように挟み込む。
縁を重ねて潰しながら隙間なく貼り付ける。

4.焼く
フライパンに残りのバター10gを入れて中火にかける。
ピエロギを入れて両面に軽く焼き色が付くまで焼く。
皿に盛り、2のタマネギとベーコンのソースをかける。
パセリを散らして出来上がり。

References

References
1 アーチを中央で支えるくさび形の石
2 約480km
3 メジャーリーグ・ベースボール
4 ナショナル・ホッケー・リーグ
5 ナショナル・フットボール・リーグ
6 パイレーツは1947年まで青と赤、ペンギンズは1979年まで青と白
7 ナショナル・バスケットボール・アソシエイション
8 メジャーリーグ・サッカー
9 2024年時点
10 クォーターバック
11 #12
12 ディフェンスタックル
13 #75、出身であるノーステキサス大学のスポーツチームの愛称が「ミーン・グリーン」
14 ラインバッカー
15 #59
16 #58
17 コーナーバック
18 #47
19 1974年,1975年,1978年,1979年
20 #7
21 2005年,2008年
22 イギリス首相・在任1766-1768年
23 国際航空運送協会