フジは古くから日本人に愛されてきた植物で、初夏を象徴する樹木のひとつです。マメ科のつる性落葉高木。房状の白や薄紫の花が垂れ下がるようなかたちでつくという特徴があります。フジ属の学名・英語名はウィステリアwisteriaです。日本原産のフジは学名では「花がたくさん」という意味のfloribundaフロリブンダ、英語ではJapanese Wisteiraと呼ばれています。19世紀にアメリカやヨーロッパに紹介され、非常に人気の高い園芸植物となりました。普通、日本ではブドウのように棚をつくり、つる枝をからませるように伸ばして仕立てます。でも欧米では壁面に這わすスタイルも良く見かけますし、鉢植えで育てることも一般的です。
ちなみに、floribundaの名称はフロリバンダの表記で、バラのポリアンサ[1]小輪の房咲きとハイブリッド・ティー[2]ハイブリッド・パーペチュアルとティーの交配種で大輪の四季咲きによる、モダン・ガーデン・ローズの交配種に使われます。四季咲きで花束のような花をつけるので人気が高いです。
フジの栽培で要注意なのは剪定です。通常は花後と落葉後の2度に分けて行います。花後はからんだり伸びすぎた枝を切り取るだけです。夏には次の花芽ができてしまうので6月ぐらいまでには済ませます。落葉後の剪定では、花芽を残すように気をつけながら、枝やつるを切ってかたちを整えましょう。このとき不用意に太い枝を切るとそこから大量の樹液があふれ出し、そのまま枯れこむということもあるので注意が必要です。棚仕立ての場合には、冬の剪定と同時に立ち上がった枝を水平に誘引することも忘れずにしなければなりません。
植物の花の付き方、並び方のことを花序と呼びます。花序を分類するのは、花軸[3]花が付く茎の伸び方やそこにつく花柄(かへい)[4]花軸から分かれて花を支える茎の配列の仕方です。フジのように、1本の花軸に元のほうから先に向かって順番に、花柄のついたたくさんの花をつけるものは総状花序という名前がついています。デルフィニウムやジギタリス、アブラナ、アリッサム、ルピナスなどが総状花序です。同じように1本の花軸にたくさん花をつけるものでも、花柄がなく直接花が並ぶ種類は穂状花序(すいじょうかじょ)として区別されています。グラジオラス、オオバコ、キンギョソウなどがその仲間です。
フジに似た同じマメ科の植物がキングサリLaburnum anagyroidesです。キバナフジとも呼ばれます。日本ではさほど浸透していませんが、ヨーロッパではよく使われている庭園の樹木です。フジと同じように花が垂れ下がるように咲くので、列植してアーチ形に仕立てると魅力が際立ちます。知る限りで一番美しいキングサリが見られる場所はボドナントガーデンBodnant Gardenです。ウェールズ北部コンウィ州のタレアカフンTal-y-Cafnにあります。1874年以来、5代にわたって引き継がれてきた庭園は、プラントハンターが収集した南半球や日本を含めたアジアの珍しい樹木を揃えた庭、斜面を利用したテラス式庭園、ローズガーデンなど見どころが豊富です。それでも、やはり5月から6月にかけて見頃を迎えるキングサリのアーチは圧巻としか言いようがありません。この庭は1949年にナショナルトラスト[5]名所旧跡の保護、維持管理を目的とする団体に贈与され、管理と運営が行われています。