ブランデー / Brandy

果実を発酵させ蒸留してつくる酒を総称してブランデーと呼びます。蒸留の仕組みというのは、14世紀初頭に南仏はモンペリエの医師で薬剤師のアルナルドゥス・デ・ヴィラ・ノヴァが、錬金術の実験中に偶然発見したのが最初だそうです[1]起源についてはほかにも説があります。フランスでのワインづくりは、古代ローマ時代にに持ち込まれて以来根付いていたものの、長期保存の技術が未熟であったため、たくさん製造しても酸化して飲めなくなることが悩みでした。そのため、蒸留法と蒸留酒の保存法の研究がすすめられて、15世紀にはアルマニャック地方[2]ボルドーの南西、トゥールーズの西でブランデーの製造がはじまり、遅れて17世紀からコニャック地方[3]ボルドーの北、アングレームの西も本格的に加わったとされます。今でもこの二大産地が最高品質のブランデーを提供し続けていると言っていいでしょう。それぞれ蒸留や貯蔵の方法に違いがあり、個性のある良酒を生み出しています。ブランデーbrandyというのは、フランスのブランデーの積出、運搬に関わっていたのがオランダ商船だったことから、中世オランダ語のbrantwijnブラントヴェイン(brantは蒸留、wijnはワイン)が転訛したものです。

アルマニャック、コニャックの特徴は、熟成年数によって等級を付けているところでしょう。VO[4]very old、VSO[5]very superior old、VSOP[6]very supeior old pale、XO[7]extra oldといった略称をご存じの方も多いと思います。これらがすべて英語によるのは、ボルドーワイン同様に最大の消費地がイギリスだったからです。
さて、おそらく高級ブランデーとして、ナポレオンという名称を聞いたことがあるでしょう。でもその由来を知っている人は少ないのでは。山本直文著の西洋食事史[8]1977年三洋出版貿易より初版発行記載部分に一部補足するとこんな内容です。ナポレオンはブランデーが好きで、ワーテルローでの敗戦[9]1815年6月18日後に二隻の船でフランス南西部のロシュフォール[10]カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画「ロシュフォールの恋人たち」で有名になりましたからアメリカへ亡命しようとして大量のブランデーを積み込みましたが、イギリス軍に港湾を封鎖[11]ロシュフォールから大西洋へ出たエクス島されてHMS[12]His Majesty’s Ship 国王陛下の船ベレロフォンに降伏します。二隻の積み荷はすべてをベレロフォンに移すことができなかったため、イギリス軍がブランデーを粗方飲んでしまい、それを「ナポレオンのブランデー」と呼んだことが始まりだそうです。ナポレオンはそのままセント・ヘレナ島へ送られて1821年に亡くなりました。

ブランデーと同様に果実を原料にする蒸留酒をまとめてオー・ドゥ・ヴィーeau-de-vieと呼びます。ブランデーと言えば、狭義にはブドウの蒸留液を樽詰めして熟成させた酒と考えられるので、バーで銘柄を指定せずに頼んだとしてもまず意図したものが供されるはずです。しかし、オー・ドゥ・ヴィーのほうは幅広く、もともと命の水を表す言葉であることから、蒸留酒以外にも使われていて、この名前だけでは判別できません。
蒸留酒のオー・ドゥ・ヴィーとしては、洋ナシのポワール・ウィリアムPoire Williams、サクランボのキルシュヴァッサKirschwasser、スモモのツヴェシュゲンヴァッサZwetschgenwasserなどがあります。ワイン用のブドウを圧搾した残留物からつくるマールMarc(イタリアではグラッパ)も含めることが多いです。ハンガリーでは、国内で製造される果実蒸留酒をパーリンカpálinkaと呼び、製造法や原産地が厳格に守られています。また、スカンジナビアやアイスランドにはジャガイモを主な原料としてつくられる蒸留酒アクアヴィットがあり、これはオー・ドゥ・ヴィーと同じ命の水の意です。

References

References
1 起源についてはほかにも説があります
2 ボルドーの南西、トゥールーズの西
3 ボルドーの北、アングレームの西
4 very old
5 very superior old
6 very supeior old pale
7 extra old
8 1977年三洋出版貿易より初版発行
9 1815年6月18日
10 カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画「ロシュフォールの恋人たち」で有名になりました
11 ロシュフォールから大西洋へ出たエクス島
12 His Majesty’s Ship 国王陛下の船