マリゴールドは、初夏から秋にかけて長い期間に花をつけ、性質も強いので花壇やコンテナの植栽要素として使いやすい植物です。花色は黄色からオレンジが多く、中には赤や白に近いものもあります。
ウィリアム・シェイクスピアの作品「冬物語」”The Winter Tale”のなかでは、「マリゴールド、日没とともにベッドにつき、日の出とともに泣きながら目覚める」”The marigold, that goes to bed wi’ the sun, And with him rises weeping”と描かれています。でもこれは通常カレンデュラと呼ばれるポットマリゴールドPot Marigold(学名Calendula officinalis、和名キンセンカ)のこと。この花は「冬物語」の舞台となったシチリア島をはじめ南ヨーロッパや北アフリカの原産で、シェイクスピアの表現どおり、朝日が昇ると花を開き、太陽がかげると花を閉じる性質があります。規則正しく毎日花を開くため、カレンダーの語源と同じラテン語kalendaeをもとにした属名Calendulaがつけられたそうです。また、ルネサンス期に聖母マリアの祭日にお供えする花として使われたのでマリゴールドとなったとか。スパイシーな芳香があって、花は食用にされ、その抽出物には薬効があるとされます。鮮やかな色の花弁がサフランの代わりに料理の色付けに使われたこともありました。
一方、マリゴールドとして私たちがよく知っている植物は、もともとメキシコおよび中南米の広い地域が原産のキク科一年草です。この花と最初に出会ったヨーロッパからの航海者たちが、カレンデュラに似ている花としてマリゴールドの名で本国に伝えたことで混同されてしまいました。
マリゴールドの属名はタゲテスTagetesです。ローマ以前の古代のイタリアに興った、エトルリアの神タゲスに由来するといわれます。タゲスは賢い子供の姿であらわされ、人々が耕していた農地から突如出現し、予言の方法を教えてふたたび土の中へと消えたという神話があります。地中から現れたことで発芽、生育の容易さと、利発な子供のイメージから属名がついたようです。その神話の場所にはエトルリア最初の都市が建設され、農地の持ち主であったタルクンの名をとってタルクィニアTarquiniaと呼ばれました。いまもその遺跡は残り、ローマからは日帰りで見に行くことが可能です。
園芸種のうち、草丈が短く小輪、中輪タイプのものは、スペインからフランス経由で各地に伝わったことからフレンチ・マリゴールドFrench Marigold(学名Tagetes patula)、それに対して草丈も花も大ぶりなタイプは、アフリカン・マリゴールドAfrican marigold(学名Tagetes erecta)の名があります。スペインから北アフリカに渡ったものが帰化し、その後訪れたスペイン人が自生種と勘違いしてヨーロッパへ逆上陸したことによるらしいです。
他の植物の近くに植えることでその植物あるいはお互いの成長を助けたり、虫害や病害を抑えたりするものがコンパニオンプランツCompanion plantsです。多くのハーブ類が含まれますが、フレンチ・マリゴールドの場合、根から分泌される活性成分が土壌中に生息する線虫類を殺すことによって、まわりの作物への線虫の被害をなくすことが知られており、野菜や果物の栽培をする庭ではよく使われます。有機栽培を行いたいキッチンガーデンでは、自然農薬とともに欠かせない味方です。
家でポット苗から育てる場合は、花がしぼんだら花がらを摘んで、新しく分枝した上の部分で切り戻してあげるとたくさんの花を続けて楽しむことができます。