ミモザ

3月8日は国連が定めた国際女性デーです。イタリアではこの日に、男性から女性へミモザの花を贈る習慣があります。女性の強さの象徴として強健な性質のミモザの小枝でこの日を祝うようになったそうです。ロシアでは、1917年にペトログラード[1]現在のサンクトペテルブルクで起こった国際女性デーのデモが二月革命の発端になったとして、この日を祝日としています。この日とは直接関係はありませんが、ゆで卵をミモザに見立てて散らすミモザサラダは、ロシアでは一般的な家庭料理のひとつです。固めにゆでたジャガイモ、ニンジンをすりおろし、細かく刻んだタマネギ、サーモンやツナなどの缶詰の魚などを、セルクル[2]ケーキやお菓子をつくるための底がない丸い型あるいは大きめで底が平らなガラス容器に順番に重ねていき、すりおろした卵の白身、黄身を振りかけます。雪の上に散るミモザの花びらのイメージです。セルクルに入れたものは外して盛り付け切り分けます。断面がケーキのようで奇麗です。シャンパンにオレンジジュースを加えたミモザというカクテルと一緒にいかがでしょうか。

ミモザは小さな葉と黄色い花が密生し、ひと房だけでも見栄えがするのが特徴です。春を告げる花としてイタリア以外のヨーロッパでも一般的。南フランスのマントンで行われるミモザ祭りは、ニースのカーニバルのようにミモザの花で装飾した山車がパレードを行う盛大なイベントとして知られます。

実は、このミモザと呼ばれる植物の学名は、Acacia dealbatatoiiaといいます。日本語名はフサアカシアです。また、同様に姿が似ているギンヨウアカシアAcacia baieyanaもミモザの名で呼ばれることがあります。本来のミモザMimosaは、オジギソウ属を指す学名でした。どちらも同じマメ科で、葉の大きさや形がよく似ていることから、混同されて伝わり、次第に定着してしまったのだと思われます。アカシア属の葉は、触れてもオジギソウのように葉を折りたたむ運動をすることはありません。ちなみにオジギソウに近い植物ネムノキは、夜になると葉を閉じて合わせるようにする姿が、眠るように見えることから名付けられたものです。

左:オジギソウ / 右:ネムノキ

アカシア属は、主にオーストラリアを中心に1000以上の種があるといわれます。日本では、フサアカシアとギンヨウアカシアが一般的です。非常に成長が早く、小さな苗を植えつけても、数年で幹の太い立派な大木に育ちます。庭に取り入れる場合には、植え付け場所に注意が必要です。
いまでは、ほかにも様々な園芸品種が出回ってきています。中には株立ちの低木タイプもあり、剪定をすることで高さや広がりを抑えられるでしょう。

さて、続けて紛らわしい名前のはなしですが、アカシア蜂蜜なるものがあります。通常、ミツバチは1種の花しか蜜源としないため、アカシアだけでなくレンゲやクローバー、ラベンダー、ローズマリーなどたくさんの単一種の蜂蜜をつくることができます。ところが、このアカシア蜂蜜は、ミモザやほかのアカシア属の植物を蜜源としているわけではありません。蜂蜜を採取するアカシアとは、一般にニセアカシアの名で通っている樹種で、同じマメ科のハリエンジュといいます。アカシアとは別の属に分類される植物です。花は大ぶりで白く、ミモザとはまったく見た目も違います。明治時代にハリエンジュが日本にもたらされた際に、学名のRobinia pseudoacaciaからアカシアと呼ばれたようです。このpseudo[3]発音はスードウとは英語で「偽物の」とか「よく似た」とか「みせかけ」を意味します。つまり学名からしてニセアカシアということです。ちなみにpseudonym[4]スードニムになるとペンネームや偽名の意味になります。

さらにニセアカシアは英語ではfalse acacia(偽のアカシア)と呼びますが、locust treeとも呼ばれます。locustはバッタ科の昆虫の総称で、単独ではイナゴを指す単語です。日本ではあまり馴染みがないものの、欧米では古くからよく知られるキャロブcarobというマメ科の木があります。その実がイナゴマメlocust beenです。北米へ渡った入植者がニセアカシアを見たときに、実がイナゴマメに類似していたことからイナゴの木となったといわれています。とてもややこしいですね。
イナゴマメは乾燥させると一粒一粒の豆がどれも同じ重さとされ、古代からものの重さを量るためのおもりとされました。よくダイヤモンドとかの宝石に使われるカラット[5]1カラット=0.2gという単位はこのキャロブに由来します。

References

References
1 現在のサンクトペテルブルク
2 ケーキやお菓子をつくるための底がない丸い型
3 発音はスードウ
4 スードニム
5 1カラット=0.2g