春に咲く小型の球根草花のひとつムスカリMuscari neglectum。釣鐘型の青系の小さな花が房状に集まって咲くのが特徴です。その姿がブドウのように見えることから、英語ではGrape Hyacinthグレープ・ヒヤシンスと呼ばれます。茎も短く花も小さいので、単独よりはチューリップなどのほかの大型の春咲き球根草花と混植されたり、ボーダーガーデンの最前列に並べられたりすることが多いかもしれません。原産地は幅広く、地中海地域から南西アジアあたりです。中でもトルコ、イラン、南コーカサスに多いといわれます。日本で園芸に使われるようになったのは比較的最近です。品種改良によって花のかたちや色も増えて人気も出てきました。ところが、実は欧米では、この植物は「侵略者」つまり危険な外来生物として扱われることがあります。ムスカリには約60の種が確認されていますが、そのうちの3種[1]armeniacum、botryoides、neglectumは特に活発に繁殖して、いつの間にか手が付けられないぐらいに広がっているのだそうです。殖え過ぎてしまうと葉ばかりがだらしなく伸びて、花はあまりつかなくなります。ですから、園芸家は、庭に植える場合は仕切りを作ってそこから伸びないように工夫するとか。日本でも注意しないといけないかもしれません。
ムスカリは以前はユリ科に分類されていたのですが、分類体系が変わってきているので、いまはキジカクシ科に属します。キジカクシという名前はあまり耳慣れないでしょう。日本の野山に自生する多年草で、茎が食用になります。キジカクシ科はAsparagaceaeです。要するにアスパラガス。アスパラガスの和名はオランダキジカクシです。普通アスパラガスは野菜として茎だけで売られていますね。その周りについている三角形の部分が葉で、先端は葉の集まりなのです。収穫しないで土に植えたままにしておくと、その葉の内側から細い茎が伸びてきて、細かく分枝しながら密生した違う形の葉を出します。キジカクシも同じで、葉が旺盛に生い茂って雉を隠すということでこの名があるそうです。
ムスカリの名は、麝香(ジャコウ)として知られるムスクからきています。その花の香りからつけられたのでしょう。ムスクはジャコウジカの雄の香嚢(こうのう)と呼ばれる分泌腺から採れる香料です。インドや中国では古代から利用されていたといわれます。ムスクmuskの名は、サンスクリット語でネズミを意味するmūṣの指小辞muṣka が語源[2]Merriam-Webster onlineによるのようです。香嚢の形状が似ているからとのこと。ついでに、筋肉の英語muscleもラテン語でネズミを意味するmusの指小辞musculusが語源。[3]online etymology dictionaryによるこれも上腕二頭筋、つまり力こぶの形から連想しているらしいです。香嚢はともかく、筋肉は小さいネズミなんですね。
ムスカリみたいに房のような形の花の付き方を総状花序といいます。下から上へ順番に咲いていく無限花序の一種です。より下のほうが花軸が長くなるので、円錐形に見えることもあります。フジやアブラナ、ジギタリスなども総状花序です。