梅と桜の開花の間の短い期間に、葉に先がけて花を咲かせるモクレンやコブシは印象的です。特にモクレン(シモクレン)やハクモクレンの色鮮やかなカップ型に咲く花は、桜のような華やかさはないものの、優雅な風情を感じさせます。蝋細工のような透明感のある光沢と芳香が特徴です。モクレンは中国原産の落葉樹です。古くから造園樹木として利用されてきました。自然に樹形が整うタイプで剪定などの管理もあまり必要がなく、しかも耐寒性があって病害虫にも強いというとても扱いやすい樹種といえます。白い花のハクモクレンは樹高が10~15mにもなり、葉張りもあって見栄えがしますから、大きな庭での単植にもいいでしょう。赤紫色の花をつけるシモクレンの方はせいぜい3~4mぐらいの大きさなので、列植や小さい庭のアクセントにおすすめです。最近では花の大きさ、色、形に変化のある園芸品種もたくさん出回るようになりました。
コブシはモクレンに比べると花全体が小さめで花弁も細めです。花の下に葉が一緒に出ます。日本の植物分類学者の祖である牧野富太郎博士によって、つぼみの形状が拳に似ていることから名づけられました。
モクレン属の樹木は、常緑で大きな花をつけるホオノキやタイサンボク、それに公園などでもよく見かけるハンテンボク(ユリノキ)など身近にたくさんあります。モクレン属の学名マグノリアMagnoliaという名前は、ピエール・マニョール(Pierre Magnol)というフランスの植物学者の名からつけられました。マニョールは、17世紀に南仏のモンペリエという町で生まれ育ち、プロバンスからピレネーやアルプスの山々までの植物を、主に薬用として研究しました。彼はモンペリエにあるフランス最古の植物園で園長をつとめたのち、パリの王立科学アカデミーの会員となり、各地の植物学者や博物学者と交流を深めた人物として知られています。
植物の分類体系というのは科学全体の進歩とともに変化しています。少し前まではクロンキスト体系というのが新しい分類だといわれていましたが、現在は、DNA解析によるさらに新しい被子植物分類のAPG体系[1]植物系統グループ Angiosperm Phylogeny Groupに移りつつあります。それによると植物界の分類は、大きい方から類、目、科、亜科、属、種の順番です。これを遡っていくとモクレンは、モクレン類Magnolialesモクレン目Magnolialesモクレン科Magnoliaceaeモクレン亜科Magnolioideaeモクレン属Magnoliaに分類されます。被子植物とは種子となる胚珠を包む子房があるすべての植物を指すものです。APG分類体系では、その被子植物をモクレン目、単子葉類、真正双子葉類に大きく分けています。つまりモクレンはその代表のひとつということです。
マグノリア・ブラッサムというカクテルがあります。レシピはいろいろありますが、概ねジンベースで、レモンジュースと生クリーム、グレナディン[2]ザクロ果汁の入った赤いシロップを加えてシェークするというもの。泡立ったクリームにほんのりピンクが入るのがモクレンの花のイメージでしょうか。