ラジャスタン / राजस्थान

インド北西部に位置する国内最大の州がラジャスタン州です。古くはラージプータナRajptanaと呼ばれました。紀元前に中央アジアから移動してきたラージプートと総称される民族集団が定住し、数々の王国を築いてきた場所です。18世紀に入ると、それまで現在のインド、パキスタンを中心に領土を拡げて権勢をふるったムガール帝国が衰退をはじめます。分裂して独立した地域は、イギリス東インド会社と手を結び、藩王国と呼ばれる領邦国家へと変わっていきました。その藩王国を治めていたのが藩王マハラジャMaharajaです。mahaは英語のgreat、rajaはkingなので大王という意味。しかし、藩王国は数が多いうえに規模や統治形態がまちまちだったことから、中には大きな権力を持たないものもあり、尊称としての意味合いもあったようです。1947年のインド・パキスタン分離独立の時点で500以上もあった藩王国のほとんどは、どちらかの国へ併合されることとなり消えていきました。ラジャスタンはマハラジャ統治時代の面影を色濃く残す、城塞や町並みに見どころが多いところです。

◆ウダイプルUdaipur
ラジャスタン州の南部ピチョラ湖に面する町。白い建物が多いことから別名はWhite cityホワイトシティです。8世紀から続くメーワール王国は、ムガール帝国に従うことを拒んだため侵攻され領土の半分を失います。ウダイプルは、マハラジャ(ウダイプルではマハラナMaharanaという)ウダイ・シン2世Udai Singh IIによって、1553年にそれまでの首都Nagdaナグダの南西に新首都として建設されました。湖畔に聳えるマハラナの宮殿シティ・パレスが最大の見どころです。湖の小島にもともと夏の離宮として建設されたJagniwasジャグニワスは、現在はLake Palaceレイク・パレスという5つ星ホテルになっています。部屋やレストランの内装が豪華であることも然ることながら、やはり湖上に浮かぶ環境つまり雰囲気が最高です。わざわざここまで行っても宿泊する価値はあります。

左:シティ・パレス / 右:レイク・パレス

◆ジャイプルJaipur
首都デリー、タージ・マハルで有名なアグラとともにGolden triangle黄金の三角地帯と呼ばれるジャイプルはラジャスタンの州都です。赤い砂岩でできた城壁や建築物が多いのでPink cityピンクシティの名があり、その旧市街はユネスコの世界遺産に登録されています。この地に興ったアメール(アンベール)王国は現在のジャイプルから10㎞ほどの岩山に城塞を築きました。その後増築された巨大な宮殿は、ヒンドゥーとムガールのイスラムの建築様式が融合した優美なものです。この城に登るために麓から象のタクシーを利用することができます。

左:アメール城 / 右:象のタクシー

城壁に囲まれたジャイプルの町は、1727年にマハラジャのサワイ・ジャイ・シン2世Sawai Jai Singh IIによってアメールから遷都された場所です。町の象徴はマハラジャの宮殿シティ・パレス。今でも最後の王家が宮殿内の一部で暮らしています。

シティ・パレス

ジャイプルの名とともによく目にするのがシティ・パレスにあるHawa Mahar風の宮殿でしょう。全面がjharokhasジャロカと呼ばれる小さな格子窓で仕切られている独特の建築です。この窓はエアコンのような役目を果たしているといわれます。窓から流れ込む風が宮殿全体に新鮮な涼しい空気を送り込み、夏の暑い時期でも快適さをもたらすのだそうです。
サワイ・ジャイ・シン2世は科学に精通していたといわれます。優れた天文学者として知られており、ジャイプルを含めて5ヶ所に天文台を建造しました。そのうちで最大規模なのがJantar Mantarジャンタル・マンタルです。彼自身の設計による石造りの観測機器を見ることができます。

左:風の宮殿 / 右:ジャンタル・マンタル

◆ジャイサルメールJaisalmer
ラジャスタン州を西へ向かうと周囲は荒涼とした砂漠ばかりとなって、小さな町や集落が点在する光景が続きます。休憩がてら、道沿いの小さな店で揚げたてのサモサをつまんだり、甘いマサラチャイを飲んだりするのも楽しみです。やがてたどり着くのがジャイサルメール。黄色い砂岩で造られた城塞と町並みからGolden cityゴールデンシティと呼ばれます。12世紀にマハラジャ(ジャイサルメールではマハラワルという)ジャイサル・シンJaisal Singhの命により建設されました。完全な城壁に囲まれた城塞の中には、独特の建築と細緻な装飾が美しいマハラワルの宮殿やジャイナ教寺院などが見られるだけでなく、何世紀にもわたってここで暮らす人々とも出会えます。少し日が傾いてきたらラクダの背に揺られて砂漠の遊覧へ。砂丘の彼方へ沈んでいく夕日を眺めに行きましょう。
ジャイサルメールからタール砂漠をさらに西へ120㎞ほど行くとパキスタンとの国境です。1971年、東パキスタン(現バングラデシュ)の独立戦争に介入したインド軍がパキスタン軍と戦ったLongewaraロングワラがあります。情緒溢れる町を旅してまわるとともに現代史を知る機会があってもいいかもしれません。

◆ジョードプルJodhpur
ラジャスタンで最もおすすめの場所です。ここはBlue cityブルーシティ。旧市街の建物の壁が青く塗られているからです。ジョードプルは1459年ニマールワール王国のマハラジャ、ラオ・ジョーダRao Jodhaによって造られました。高さ125mの丘の上に聳える壮大なMehrangarh-fortメへランガル城塞は逞しく堅固なつくりだけでなく、複雑で精巧な彫刻が施されたひとつひとつの建物が見事です。城内の観光を終えたら城下町へと行ってみましょう。壁面が青く塗りつくされた家並みは一種幻想的でもあります。

旧市街から少し離れたチッターの丘に威容を誇るのがUmaid Bhawan Palaceウメイド・バワン宮殿。1929年に建てられたマハラジャのウメイド・シンUmaid Singhの宮殿です。こちらも現在は5つ星ホテルとなっていて、内部にはアールデコ調に統一された豪華な客室が用意されています。マハラジャ気分を味わうには持って来いです。

左:ジョードプルの町並み / 右:ウメイド・バワン宮殿
城塞から見下ろす青い町並み