春に鮮やかな色の花を咲かせる球根草花のひとつが、ラナンキュラスです。このラナンキュラスranunculusというのはキンポウゲ属の総称。ラテン語でカエルを意味するranaが語源とされます。一般にカエルが棲む湿地帯に自生するからといわれますが、そうではなくて、本当のところは葉の形がカエルの足に似ているからその名があるのだと思います。なぜなら、キンポウゲの仲間にはハイキンポウゲcreeping crowfootやセイヨウオダマキeuropean crowfootなどの「カラスの足」という英語名の仲間がいるからです。これらの名も葉の形からきています。
キンポウゲの英語名はバターカップbuttercup。多くのキンポウゲが牧草地に生え、黄色のカップ型の花をつけるからです。一般にラナンキュラスとして切り花や球根で知られているのは、学名をRanunculus asiaticusといい、英語ではpersian buttercup あるいはturban buttercupと呼ばれます。花の形の印象がペルシャやターバンということなのでしょう。和名はハナキンポウゲです。15~30cmと長く伸びた茎の先端に大きめの花をつけます。花弁は一重または八重になりますが、一重咲きのほうはぱっと見同じキンポウゲ科のアネモネと間違えやすいです。実はアネモネの花弁に見える部分は萼片つまり花を支える部分。でもラナンキュラスは花弁なので、よく見ると花弁の下に5枚の楕円形でくぼんだ形の萼片があるので見分けられます。
ラナンキュラスの原産地は、エーゲ海の島々からトルコ、かつてレバントと呼ばれた東地中海地域、そして北アフリカです。面白いのは、その地域によって一色の花しか見られないということでしょう。原生している地域の多くでは、ほかのキンポウゲ属でも一般的な黄色の花ばかりです。ところがクレタ島では、黄色は北西部のみに限られます。同じクレタでもほかの場所ではほとんどが白い花。また、ロードス島では黄色や白は見られず、赤い花になります。
16世紀ごろからヨーロッパでは品種改良が盛んに行われたことで、ラナンキュラスは花色も豊富になりました。さらに大きな特徴として花弁の枚数の多さがあります。本来の枚数以上の花弁ができるのは、雄しべなどのほかの器官が突然変異で花弁に変化したからです。ところが、突然変異によるわけですから、種子ができてもそこから生まれるのが同じように花弁の枚数の多い子どもとは限りません。そのため、その花の球根を切り分けて殖やすという栄養繁殖をおこないます。これを何度も繰り返すことで、様々な花色や花弁の枚数の品種が生まれました。栄養繁殖で問題なのは、親株が病気になった場合に、増殖した子どもがそれを受け継いでしまうことです。これを解決したのがメリクロン栽培。meristem分裂組織とcloneクローンを合わせた造語です。もともとは、株分けなどでの繁殖が異常に困難だったコチョウランなどの洋ランに用いられていた技術でしたが、いまではカーネション、ガーベラといった切り花用の多くの植物にも利用されています。新しく出た芽の先端部分の組織だけを採取して、無菌の培地で育てることにより、病気やウイルスから守ることができるのだそうです。