リナリア

春に小さくかわいい花をたくさんつけて花壇を彩るリナリアlinariaは、オオバコ科の一年草です。リナリアというのはウンラン属の総称。ウンランとは漢字では海蘭と書き、海岸の砂地に生える多年草です。もともとは地中海沿岸地域に広く分布する性質の強い多年草または一年草でした。日本での園芸種は通常一年草扱いにされていて、リナリアというと一般にはヒメキンギョソウLinaria maroccanaのことを指します。その和名はキンギョソウを小さくしたような姿から名づけられたものです。英語ではキンギョソウのことを、花の形状が口を開いて噛みつこうとする竜のようにみえることからスナップドラゴンsnapdragonと呼びます。金魚のかたちから連想される和名とは随分とイメージが違いますね。リナリアの英語名はトードフラックスtoadflaxです。トードはヒキガエル、フラックスはアマ(亜麻)の意味。一部のリナリアの仲間の葉はアマの葉に似ていますが、ヒキガエルというのはやはり花の見た目がそれっぽいからということでしょうか…。アマの繊維で織った布、亜麻布のことをリネンと呼びます。日本語で「麻」の名で流通している繊維製品は、ほとんどがこのリネンで、もともとの麻(大麻)は使われていません。アマ属の学名はLinum やはりキンギョソウの小型版ということでワイルド・スナップドラゴンともよばれます。実際にはリナリアはキンギョソウの矮性種というわけではありません。どちらもオオバコ科ですが別の属に分類されます。

キンギョソウの花

同じゴマノハグサ科の植物には全世界に約4,500の種が存在するといわれていますが、お馴染みなのはコンテナでもよく利用される一年草のネメシア、トレニアそれに多年草のディギタリス、ベロニカなどでしょう。また最近人気のでてきたバーバスクムや雑草として扱われるオオイヌノフグリといったところも仲間です。ゴマノハグサとはその根が消炎、鎮痛に効くという漢方薬となる玄参(ゲンジン)のことで、欧米でも古くからハーブとして使われています。おもしろいのは和名は葉のかたちがゴマの葉に似ているところから、でも英語名figwort(フィグワート:イチジクの草という意味)は葉のかたちがイチジクの実に似ていることからきているということでしょう。

リナリアの花は上下に違う形状の花弁がくっついているように見えます。これは、やってくる虫たちに奥にある蜜を吸わせて同時にそのからだに花粉を付けるというとても合理的なかたちなのです。その花弁を観察してみると、先の方は完全にわかれていてももとの方ではつながったひとつの花びらなのに気づきます。花にはそれぞれが分離した複数の花弁で構成される離弁花と、花弁が分かれていないタイプの合弁花が存在します。合弁花の中には、リナリアのほかにサツキ、アベリア、アサガオ、キキョウなどが含まれます。花が漏斗状だったり先端だけが分かれているものとがあるのです。もともと花は離弁花ばかりでしたが、それが進化して花弁がつながった合弁花が生まれたといわれています。合弁花はどれもよく見るとあいだに折り目のような筋が必ずあり、それがかつて花弁が分かれていた頃の名残りとわかります。

左:アベリア / 右:アサガオ