ポルトガルの首都リスボンから車で小一時間のところにCabo da Rocaロカという名前の岬があります。北緯38度46分51秒、西経9度30分2秒に位置し、ヨーロッパの最西端の地として多くの観光客が訪れる景勝地です。海面から約150mの丘の上には18世紀に建てられた小さな灯台があり、船が行き交う大西洋を一望できます。灯台の足元から広がる公園には最西端の記念碑が立ち、16世紀ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスLuís de Camõesの詩の一節”Aqui…onde a terra se acaba e o mar começa”「ここに…陸地が終わり、海が始まる」と書かれた碑文が。ちなみに、千葉県銚子市の犬吠埼灯台近くには犬吠埼ロカ岬友好記念碑があり、そこには「海 終わり 陸 始まる 犬吠埼」と記されています。
ロカ岬までやってきたら、お土産として観光案内所で最西端到達証明書を入手するのもおすすめです。リスボンからは、近くのシントラ王宮やカシュカイシュなどと合わせて簡単に日帰り観光ができます。
ロカ岬はポルトガルの13ある自然公園のひとつParque Natural de Sintra-Cascaisシントラ・カシュカイシュ自然公園の中にあります。灯台周辺は草花が茂り、春から夏にかけては一面の花畑といった装いです。中でもそこでひときわ目立つのが、カルポブルトゥス・エドゥリスCarpobrotus edulisという植物。葉がマツバギクのような多肉質で、足元の低い位置で地面いっぱいに広がり、大きめの花を次々とつけます。南アフリカが原産で、マツバギクと同じハマミズナ科に分類されます。日光を浴びると徐々にその花びらを大きく開いていくのが特徴です。匍匐性[1]ほふくせい・地面を這うように広がる性質なので、日当たりさえよければどんどんと横に伸びて増えていきます。ちょっと見ただけではわかりにくいのですが、その肉厚の葉の断面は三角形です。
カルポブルトゥス・エドゥリスCarpobrotus edulisというのは学名。ギリシャ語でカルポスが果物、ブルトゥスが食用を意味します。さらにエドゥリスもラテン語で「食べられる」という意味です。実際に南アフリカではいまも実を食用にしているそうです。英語名はHottentot figといいます。原産地である南部アフリカに住むホッテントット族(コイコイ)の名前とfigイチジクに似た果実ができるところからつけられました。
この植物は、見た目はきれいですし、すでにこの場所の風景の一部になってしまっています。でも実はやっかいな帰化植物なのです。ロカ岬へ行くと、花のイラスト入りの看板が立っていて、そこにはperigosa invasora(危険な侵略者、つまり侵略的外来種)の記載があります。もともとは岬の土壌を保護する目的で持ち込まれたものですが、性質が強く順応性が高いため、一度入り込んだら在来種を押しのけてあっという間に繁茂していったようです。ここだけでなく世界にはこの植物が持ち込まれて帰化植物となった場所は広範囲にあります。原産地と気候の似ている地中海沿岸やカリフォルニア、ニュージーランド、オーストラリアなどでは、ロカ岬同様に海岸線を覆うがごとく群生している場所も見られるようです。外来種はさまざまな理由と方法でもたらされるわけで、すべてが悪者というわけではありません。しかし、それが野生化して根付き、生態系へ影響をおよぼすようになると問題視されるわけです。しかも簡単には解決ができない難問でもあります。
References
↑1 | ほふくせい・地面を這うように広がる性質 |
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