ヴァレンシア / València

スペイン南部ヴァレンシア州の東海岸は、Costa del Azaharコスタ・デル・アサアルと呼ばれます。コスタは海岸、アサアルとは柑橘類の花という意味。その名の通り、この辺りはヴァレンシア・オレンジの名産地です。Valènciaはカタカナで書くとヴァレンシアあるいはバレンシアですが、もう少し丁寧にするとヴァレンスィアになります。ただし、スィの音はスペイン語ではSの音ではなく、舌を前歯で挟むような英語のthの音です。

ヴァレンシアには3人の守護聖人がいます。一人目はSan Vicente Mártirサン・ヴィセンテ・マルティル。サラゴサ出身の304年に殉教した人で、その墓がヴァレンシアにあることから守護聖人となりました。1月22日が祝日です。二人目はSan Vicente Ferrerサン・ヴィセンテ・フェレール。1350年にヴァレンシアで生まれたドメニコ派の修道士です。 サン・ヴィセンテ・マルティル にちなみヴィセンテと名付けられました。ヨーロッパ各地で宣教を行った説教者であり、また学者としても高い評価を得ています。4月5日が祝日です。そして最も親しまれているのが、見捨てられた者の聖母la Virgen de los Desamparados。孤児、ホームレス、障碍者といった社会的な弱者のための聖母という意味です。有名な「ヴァレンシアの火祭り」では、民族衣装で着飾った人々で賑わう旧市街の中心地、聖母広場Plaza de la Virgenに高さ15mという大きな聖母子像が設置されます。そして次々と訪れる市民が供えた花束によって、聖母のケープが装飾されていくのです。

左:民族衣装の子供たち / 右:花で飾られた聖母子像

今から20年以上前、ヴァレンシア州政府からのご招待で、「火祭り」の時期に当地を訪れたことがあります。このお祭りの現地の呼称はLas Fallasラス・ファージャス。ファージャとはもとは松明の意味でしたが、いまではお祭り全体を表す言葉になりました。古くから町内会ごとに様々なコンテストで競い合うことが伝統となっていて、その主役はninotニノットという張りぼての人形です。毎年それぞれ趣向を凝らした作品が作られてコンテストの対象となります。お祭りの期間中には、等身大の小さなものから、たくさんのニノットを組み合わせて作られた高さ20m、30mという巨大なものまで、大小取り取りのニノットが町のあちらこちらに飾られるのです。その数は700以上。

このお祭りが「火祭り」と呼ばれる所以は、最終日となる3月19日の夜に、町中のニノットに一斉に火をつけて燃やしてしまうから。芸術品と呼べるようなよくできているものが多いので、何とももったいない話です。でもコンテストの投票で選ばれた優秀作品2点だけは焼かれるのを免れて、許されたニノットninots indultatsとして博物館に展示されることになっています。火祭り博物館Museo Fallero de Valènciaまで足を延ばせば、1934年以来の受賞ニノットを間近に見ることが可能です。

ヴァレンシアやマドリッドなどスペインの一部では、3月19日はSan Joséサンホセの日として重要な祝日になっています。サンホセは、イエスの育ての父である聖ヨゼフのことで、大工であったため大工職人の守護聖人です。もともとサンホセの日には、大工たちが木屑や古い材木などを集めて燃やすことが習慣として行われていたそうで、それがお祭りの起源となったといわれています。

右:火祭り博物館

ヴァレンシア名物と言えばパエージャです。これを食べないわけにはいきません。パエージャについては別の記事に書いているのでそちらをお読みいただきたいと思います。
もうひとつヴァレンシアへ行ったら試してほしいのがhorchataオルチャータという飲み物。一見すると白くて牛乳や豆乳のように見えます。でもその原料はchufaチュファと呼ばれる植物です。カヤツリグサ科の多年草で和名はショクヨウガヤツリ。日本の自生種ではなく、雑草としてキハマスゲとも呼ばれ、繁殖力が強いため要注意外来生物です。オルチャータは、チュファの塊茎(かいけい[1]球根の一種で短くなった地下茎が球状になったもの・ジャガイモやシクラメンが仲間)の搾り汁に砂糖などを加えて作ります。ヴァレンシアの町でオルチャータを味わうなら専門店のオルチャテリアへ行きましょう。fartónファルトンという菓子パンをオルチャータに浸して食べながら飲むのがヴァレンシア流です。

左:オルチャータとファルトン / 中:チュファ(英語名:tigernuts)/ 右:オルチャテリア

スペインを代表するお土産のひとつがLladroジャドロ(日本の商標はリヤドロ)。ヴァレンシアの北Almàsseraアルマセラで生まれた磁器工房で、淡い色使いの人形で世界的に有名です。マイセンやセーヴル、ウェッジウッドといった伝統あるヨーロッパの陶磁器メーカーと違って、食器ではなく置物に特化しているところが魅力といえます。現在の本社が置かれているヴァレンシア郊外のTabernes Blanquesタベルネス・ブランケスにはジャドロ博物館もあり、創業時代からの磁器コレクションや制作過程を学べる見学コースが人気。もちろんヴァレンシア市内のブティックでも素晴らしい製品の数々を目にすることができます。日本で購入することも可能なものの、品揃えが豊富な本場で手に入れるのはいかがでしょうか。

References

References
1 球根の一種で短くなった地下茎が球状になったもの・ジャガイモやシクラメンが仲間