ゲッケイジュ

煮込み料理に欠かせないハーブがゲッケイジュの葉です。フランス語ではlaurierローリエ、英語ではlaurelローレルまたはベイリーフbay leaf[1]同じ名で複数の違う種の葉もあるので要注意などと呼ばれます。ちなみにドイツ語ではLorbeerロアベア、イタリア語ではalloroアロッロ。その葉は堅くて光沢があり、表面が波打っているのが特徴です。日当たりがよければ地植えでも鉢植えでも良く育ち、生長が早くて刈り込みにも耐えます。自然での樹高は10m以上になることが多いですが、庭では2m程度で高さをとめて、整形をするといいでしょう。葉が密に生えるので生垣などの列植にも向きますし、単植にした場合はシンボルツリーにすることができます。スタンダード仕立て[2]上部1/3より下は垂直に伸びる幹だけ残して枝をはらい、上部を球形に刈り込む仕立て方にするのもおすすめです。春になると葉の脇から花穂が立ち上がり、白や黄色のフワフワとした花が咲き、それがやがて黒い果実になります。
ゲッケイジュはクスノキ科の常緑高木で、地中海沿岸地域が原産。日本には20世紀の初頭に持ち込まれました。月桂樹という名は中国語名をそのまま日本語読みに転用しています。
乾燥させたゲッケイジュの葉は頻繁に料理に使われるものの、それ自体にハーブとしての料理そのものを左右するような強い香りや味があるわけではありません。さわやかな芳香と軽い苦みを感じる程度です。それでも、これを入れると肉や魚の臭みが消え、料理全体がまろやかに整う効果があります。

古代ギリシャ起源のスポーツイベントといえば誰もが知っているオリンピックですね。実は古代のギリシャでは、それ以外にも3つの大祭としての全ギリシャ競技会が存在し、定期的に開催されていました。それは、オリンピックがゼウスを称えてΟλυμπίαオリンピアで行われたように、ポセイドンを祀ってἸσθμόςイストモス[3]現在のIsthmiaイストミア、コリント地峡南端に位置で開かれるイストモス競技会、ゼウスとヘラクレスに捧げΝεμέαネメアで行われるネメア競技会、そしてアポロを崇めるためにΔελφοιデルポイ[4]現在のDelphiデルフィで開催されるピュティア競技会です。
オリンピックで競技の勝者に与えられたのがκότινοςコティノスと呼ばれるオリーブの冠です。同様に、イストモスではマツ、ネメアではセロリの葉で作られた冠が、ピュティアではゲッケイジュの冠が授与されました。古代のギリシャおよびローマでは、これら以外にも様々な植物で作られたリースが使われていたそうです。そして、ユリウス・カエサルの戦勝を記念して用意されたゲッケイジュの冠を彼が好み、独裁官就任の際などにも着用したことから、勝者と権力の象徴としてゲッケイジュが結びついていったのでしょう。それに倣って後の皇帝や王がかぶるようになり、ナポレオン・ボナパルトも皇帝の証として金のリースを身に着けた姿が知られています。現在でも近代オリンピックをはじめ各種スポーツでの勝者に対してゲッケイジュの冠を贈るのもよく目にする光景です。それでも、2004年に開催されたアテネでのオリンピックだけは、古代オリンピックの仕来りに従ってオリーブの冠が与えられました。
さらにアポロは文化芸術を司る神でもあり、ピュテイアではスポーツ以外に音楽や詩作も競技とされていたそうです。このことから、中世以来、優れた詩人に対してpoet laureate桂冠詩人の称号を与えることがあり、現在もその伝統は続いています。
ギリシャ神話の中で、エロスのアポロへの仕返しによってゲッケイジュに変身したダフネの物語は有名です。そのためアポロとゲッケイジュは切っても切り離せないものといえます。

左:ユリウス・カエサル / 中:ナポレオン1世 / 右:神聖ローマ皇帝レオポルド1世

勝者に与えられるゲッケイジュの学名はLaurus nobilis。属名laurusは「青々とした」、種名のnobilisは「高貴な」というそれぞれラテン語を語源としています。日本語でゲッケイジュ属と呼ばれるlaurus属には、ゲッケイジュを含めて3つの種しか確認されていません。しかも残りの2つも近年までLaurus azoricaというひとつの種とされていました。現在は大西洋のポルトガル領アソレス諸島に自生する種をこの名で呼び、同じポルトガル領のマデイラ諸島、スペイン領カナリア諸島にある種を分けてLaurus novocanariensisと呼んでいます。

アメリカのメリーランド州北部とミシシッピ州南部に、ゲッケイジュの英語名Laurelローレルという名の市があります。ミシシッピの方の由来はゲッケイジュではなく、この地に自生していたMountain laurel(学名: Kalmia latifolia、和名: アメリカシャクナゲ)によるものです。でも、メリーランドの方の名前はゲッケイジュの木が生い茂っていたことから付けられており、市章にもゲッケイジュの枝が描かれています。

右:Mountain laurel

References

References
1 同じ名で複数の違う種の葉もあるので要注意
2 上部1/3より下は垂直に伸びる幹だけ残して枝をはらい、上部を球形に刈り込む仕立て方
3 現在のIsthmiaイストミア、コリント地峡南端に位置
4 現在のDelphiデルフィ