パディントン発4時50分

「パディントン発4時50分」”4.50 from Paddington”(1957年刊行)は、アガサ・クリスティのミス・マープルものの長編小説です。この時刻表記がイギリス的で分かりにくいことから、アメリカでは”What Mrs. McGillicuddy Saw!”「マギリカディ夫人は見た!」と改題して出版されました。
マギリカディ夫人は友人のミス・マープルに会うために、ロンドンのパディントン駅を16時50分に出発する列車に乗ります。途中、その列車が同じパディントン駅を16時33分に出た同方向への鈍行列車に追いつき並行して走行。すると突然、隣の列車の目の前にあるコンパートメントのブラインドが跳ね上がりました。彼女は窓越しに、その車内で起こった殺人を目撃してしまいます。しかし、ほかに目撃者はおらず、死体も発見されないので誰も彼女の話を本当だと思いません。彼女を信じたミス・マープルは、消えた遺体と犯人の行方を探るため、スーパー家政婦のルーシー・アイルズバロウに怪しいと目星を付けた邸宅ラザフォード・ホールへの潜入捜査を依頼します。ここまでの設定だけでも相当面白いですね。
パディントンは、「くまのパディントン」でも知られるロンドン市内西部にある鉄道駅です。GWRグレート・ウエスタン・レイルウェイが運行するロンドンから西のコーンウォールやデヴォン、南ウェールズ方面への列車とともに、1998年に開通したヒースローエクスプレスが発着します。ヒースローエクスプレスはパディントンとヒースロー・セントラル(ターミナル1,2,3)の間を僅か15分で結んでいて、とても便利です。パディントン駅は、ポアロものの短編「プリマス行き急行列車」”The Plymouth Express”[1]短編集「教会で死んだ男」”Sanctuary”に収録でも列車の出発駅として登場します。

さて、 「パディントン発4時50分」 はミステリーとしてももちろん上質なのですが、それと同時にルーシーの作る料理がおいしそうです。
そのいくつかをおうちでつくってみましょう。
レシピは概ね4人分です。

◆ローストビーフRoast beef

イギリスの伝統料理です。ロンドンのシンプソンズ・イン・ストランドSimpson’s in Strandは有名店。
小さめで脂肪の少ない塊肉を使い、フライパンとオーブンで簡単につくれます。
●材料
牛もも肉…400g(塊肉)
塩…小さじ1/2
黒胡椒…小さじ1/2


赤ワイン…80ml
水…80ml
無塩バター…20g
コーンスターチ…小さじ1


●つくり方
1.肉を焼く
室温に戻した肉の表面全体に塩と胡椒をまぶして10分ほど置く。
オーブンは150℃に予熱する。
温めたフライパンに油を引かずに肉をのせて中火ですべての面をそれぞれまんべんなく1分間ぐらいずつ焼く。
クッキングシートを敷いた天板に肉をのせてオーブンへ入れて30分。
焼けた肉をすぐにアルミホイルでぴったりと包みそのまま冷ます。
完全に冷めたところで薄切りにする。厚さはお好みで。
天板やアルミホイルに残った焼き汁をボウルなどに集め、大さじ1をヨークシャープディング用に分ける。

2.ソースをつくる
小鍋に赤ワイン、水、残った焼き汁、バターを入れて中火にかける。
煮立ったら、コーンスターチを加えてよく混ぜる。

付け合わせはジャガイモのロースト、茹でたグリーンピースやニンジン、マッシュポテトなど。

すぐに食べない場合は、塊のままラップでしっかり包んで冷蔵庫へ。
食べるときに、一度室温に戻してから切り分ける。

◆ヨークシャープディング
ローストビーフのお供です。ローストビーフを焼いた後でつくります。
直径6~7cm、容量80ml程度のお菓子用の型を用意します。
●材料(8個分)
小麦粉…80g
卵…2個
牛乳…200ml
オリーブオイル…大さじ1
ローストビーフの焼き汁…大さじ1


●つくり方
オーブンを220℃に予熱する。
型にオリーブオイルを分け入れて内側全体に回すようになじませる。
卵を溶いてザルで漉す。
ボウルに小麦粉を振り入れ、卵と混ぜる。
牛乳と焼き汁を加えてさらによく混ぜる。
オーブンが温まったら型だけを天板に並べてオーブンへ入れて3分加熱。
天板ごと型を取りだし、ボウルの中身を均等に流し込む。
オーブンへ入れて30分焼く。
焼けたら型からはずして盛り付ける。

◆マリガトウニースープMulligatawny soup
インド風カレー味の具だくさんスープです。
●材料・下ごしらえ
鶏むね肉…300g
※脂肪と余分な皮を取り除く
タマネギ…1/2個(100g程度)
※みじん切り
ニンジン…1/2本(75g程度)

※みじん切り
リンゴ…1/2個(150g程度)

※粗いみじん切り
ニンニク…1片

※みじん切り
ショウガ…1片

※みじん切り
無塩バター…30g

小麦粉…大さじ2
カレー粉…大さじ2
バスマティライス…70g

※水で洗う
赤レンズマメ…50g(そのまま使えるもの)

※水で洗う
ローリエの葉…1枚
塩…ひとつまみ
黒胡椒…少々
サワークリーム…40g
パセリ…2枝

※みじん切り

●つくり方
1.鶏肉を茹でる
鶏肉の膨れた部分に包丁を入れて広げていき、全体が1㎝程度の厚さになるようにする。
鍋に水600mlを入れて沸騰させる。
鶏肉を入れて30秒ほどしたら蓋をして火を止め、そのまま冷ます。
冷めたところで鶏肉を取り出し、手で細く裂く。皮は身から外して細切り。
ゆで汁は残しておく。

2.炒める
鍋にバターを引き中火にかける。ニンニクとショウガを入れ、香りが立ってきたところでタマネギとニンジンを加えて炒める。タマネギが透き通ってきたらリンゴを入れてさらに炒める。
リンゴが温まったところで、小麦粉を振り入れて全体を混ぜる。

3.煮る
1のゆで汁を足し、ローリエ、塩、胡椒を入れる。
煮立ったら鶏肉とバスマティライス、レンズマメを加えて弱火で10分ほど煮込む。

皿に盛り付けたらサワークリームとパセリをのせて出来上がり。

◆シラバブSyllabub
シラバブはイギリスの伝統的デザートで、様々なバリエーションがあります。
ここでは一番一般的と思われるレモン風味のシラバブをつくります。
●材料
白ワイン…160ml
ダークラム…40ml(できればマイヤーズ)
砂糖…大さじ3
生クリーム…200ml
レモン汁…30ml
レモンの皮…適量


●つくり方
鍋に白ワインを入れて火を点ける。ラムと砂糖を足して温める。
ひと煮立ちして砂糖が完全に溶けたら火を止め、レモン汁を加えて冷ます。
ボウルに生クリームを入れて軽くホイップする。
冷めたワインを少しずつ加えてホイップすることを繰り返す。
ホイップクリームが8分ぐらいの状態[2]掬ってもポタポタ落ちない程度・ショートケーキの上にのっているぐらいのかたさになったら出来上がり。
器に盛り付け、千切りにしたレモンの皮を散らし、冷蔵庫で冷やす。

柑橘の果汁と生クリームを混ぜているので少し分離します。最初に縦にかき混ぜるようにして食べるといいです。

お話には、これ以外にもマッシュルームスープとか、カナペ・ディアンヌCanape Dianeというベーコン巻き鶏レバーのカナッペも出てきます。
ミス・マープルはポアロのように「あなたが犯人です」と言わずに犯人を罠にかけることが好きなようです。

中:イギリスの教育書籍専門出版社collinsの英語を母国語としない人向けの読本

References

References
1 短編集「教会で死んだ男」”Sanctuary”に収録
2 掬ってもポタポタ落ちない程度・ショートケーキの上にのっているぐらいのかたさ